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なにかあり/とくになし

感激! 偉大なるライノ! その8

mrbq2010-10-29

えーと。
どこまでいきましたっけ。


カズー・オーケストラのロゴを背中に縫い付けた黒いスーツと
半ズボンという奇妙ないでたちで
ライノ・レコード・ストアのなかをゆっくりと徘徊する
謎の紳士に背後から声をかけたところでしたっけ。


「あなたはカズー・オーケストラのメンバーだったかたですか?」


男はぼくの問いかけに対し
くるっとこちらを振り向いて
「そうですよ」と
とてもおだやかに答えた。


間髪入れずに
ぼくも用意してきたレコード袋から
テンプルシティ・カズー・オーケストラのアナログ盤を取り出す。


ジャケットにはずらりと
誉れ高いオーケストラのメンバーが居並んでいる。


「だとしたら
 あなたはこのなかのだれですか?」


「あっはっは。
 これをお持ちなんですね。
 ちょっと見せてください(とジャケを手に取り、レコードを出す)。
 あ、マーブル・ワックスですね。初期のものですよ」


昆虫採集がうまくいった小学生を褒める学者みたいな口調で
紳士はしげしげと盤とジャケを見つめ、
「わたしはこれです」と指差した。


「ハロルドと言います。ハロルド・ブロンソンです」


「あ、あなたが!」と大きな声を出しそうになってしまったが、
ぐっとこらえてもうひとこと。
ライノ・レコードの共同創設者のハロルドさんですね」


紳士はわずかにほほえみを浮かべて
ぼくの問いかけをすこしだけ訂正した。


「創設者はリチャード・フースです。
 彼が1973年にウェストウッドで店を始めました。
 わたしはそこの店員で
 やがてライノ・レコードのレーベルを任されたのです」


おお、
なんと微妙にして貴重な歴史認識の修正!
そうだったのか、ライノ・レコード


「リチャードも、もう来ているはずですよ」


そう言って
彼はゆっくりと場内を見渡した。


「サインをいただいてもいいでしょうか?
 実はカズー・ブラザーズのレコードも持ってきているのです」


もっと言うと袋のなかには
「ベスト・オブ・ルイ・ルイ」も
「ベスト・オブ・ルイ・ルイ2」も
「ライノ・ロワイヤル」も
「イエス・ニュークス」も
「ディヴォーティーズ」も入っているのだ。


「ベスト・オブ・ルイ・ルイ」ほど有名ではないが、
「イエス・ニュークス」と「ディヴォーティーズ」は
初期ライノの制作したコンピのなかでも
ぼくにとって最高にお気に入りの作品だ。


1979年、カリフォルニアで行われた
核反対のベネフィット・コンサート「ノー・ニュークス」が
その気高い趣旨とは裏腹に、
豪華なメンバーを集めたライヴ盤として
メジャー・レーベルからレコード化され、
結局は原発支援企業の資金として流用されるのではないかと、
世の中をさかなでするようなタイトルをわざとつけることで
企業とメジャー・アーティストの両方を
ケラケラとからかうふりをして厳しく非難したコンピのこと。
収録されているのは
LAのインディー・バンドばかりだが
日本では知名度があったランナウェイズやクワイエット・ライオットあたりも
入っているのが興味深い。


「ディヴォーティーズ」は
大人気を呼び起こしながらも
良識あるおとなのロック・ファンにはひんしゅくを買っていた
デビュー直後のディーヴォをコピーするアマチュア・バンドのコンピ。
あまりに顔ぶれが無名&へたっぴすぎて
後方支援になっているのかわからないというのが
作品としてのおもしろさにもなっている。


まあそんなレコードを
わざわざ今日のために持ってきてはいたのだが、
ハロルドはぼくの思いからするっと身をかわすように
ステージを指差した。


「まずは彼女の歌を聴きましょうか」


ちょうどステージには
一本のマイクと高椅子が置かれ、
うら若い女性がギターを手に登場したところだった。
いよいよはじまるライノ・ファイナル・デイ・イベントの
前座を彼女が務めるのだ。


司会進行の男性が言った。


「それではご紹介します。
 ハーリー・フースです!」


なぬ? なんだって?
フース?(つづく)


感激! 偉大なるライノ! その8 松永良平


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なぞなぞに多数のご回答ありがとうございました。


なんだそりゃ、な正解と
すばらしき誤答は
明日発表します。