mrbq

なにかあり/とくになし

そう、わたしはこれがやりたかった

森の職人さんと
こびとたちのようだったなあ。


幕が開いた瞬間に思った。
ヴァン・ダイク・パークスデ・ラ・ファンタジア2010のこと。
正確に言うと
ヴァン・ダイク・パークス&ザ・リーズンズのこと。


次は何をつくろうかなと
材料をばさあっとひろげるように
二本の手と十本の指でわらわらわらあっと
無数のアイデアやメロディの断片を放り出すと、
ピアノの脇からのぞきこんでいたこびとたちが
それを次々につかまえて
するすると見事にくみ上げてしまう。


こびとたちが奏でるストリングスは
本当の音ではなく
ぼくたちの頭のなかにだけ響く
こういう音を体験したいという想像力が
生み出しているものではないかとすら思えた。


このこびとたち(リーズンズ)
ハンパネエ。


そして
現代のフォークロアアメリカに求めつづけ
いつしか彼自身が
フォークロアそのものになってしまったような
ヴァン・ダイク・パークス


“スモール”という言葉を
ヴァン・ダイクはMCで何度も繰り返して使った。


拡大主義で澱んだ地球のため
ちいさな暮らしを目指そうという意味でもあるし、
自身の作ってきた音楽をミニチュア化することで
その本質をよりむき出しにするという意味もあるような気がする。


リーズンズとの共演は、
もっと具体的に言うと、
リーズンズの頭脳である
オリヴィエ・マンションとの共同作業は
ヴァン・ダイクにとっても
おそろしく刺激的な体験だったのだろう。
彼のピアノは
「そう、わたしはこれが弾きたかった」と言わんばかりに力強かったし
歌声にも
見えない力と勇気に鼓舞されるようなところがずいぶんあった。


そう、わたしはこれがやりたかった。


そんな声が
まぼろしの向こうから聴こえてきそうな。


6時間立ちっぱなしだったことも忘れた。
ほかにも素敵な演奏ばかりで
言いたいことがあったはずなのに
あやうくあらかた忘れてしまいそうになった。


素晴らしかった。
いや本当に。