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なにかあり/とくになし

「シティライツ」という名のカクテル

今夜
「シティライツ」というカクテルを飲んだ。
新宿LOFTで300円。
今夜限りの特別カクテル。


大橋裕之の初メジャー単行本「シティライツ
その1巻(モーニングKC)発売記念のイベントが
今夜ここで行われている。


題して
「シティナイツ」。
ダジャレか。


ライヴ(マリリンモンローズ、平賀さち枝GELLERS)と
なぜか尋常ではない豪華な顔ぶれの回答者が揃った大喜利
大橋さんゆかりの出店が並ぶ
ドゥーイットユアセルフくさいイベントで
これはかなりグダグダになるだろうなと予想した。


でも
グダグダにも
良いグダグダと
避けたいグダグダがある。


そして
大橋裕之なら
もしかして
良いとも悪いとも違う
第三のグダグダを見せてくれるかもしれないと
前売り券を買ってイベントに臨むことにした。


会場に入った直後、
「今から大橋裕之先生のサイン会を開催いたしまーす」とのアナウンス(大声)。
即売で買った本でなくともサインしてくれるというので
用意よくカバンに忍ばせておいた「シティライツ」を持って
列に並ぶ。


ぼくは
じかに漫画家さんに会うと
いまだに少年のようにコチコチになる。


前に並んだひとたちへのサインを見ていると
大橋さんはだいたい女の子の絵を描いていたが
別にそれしか描きませんよと頑固なふうでもなかったので
思い切ってリクエストをしてみた。


「“アッパくん”をお願いします」


「アッパくん」とは
「シティライツ」に出て来る
漫画家志望の青年が思いついた架空のキャラクターのこと。


寸足らずのビバンダムミシュランのマスコット)のような体系で
圧迫するのが好き。
しかし社会からの圧迫は受けたくない(という設定)。


中年男に小学生みたいなリクエストをされたせいか
大橋さんは一瞬虚をつかれたような感じに見えたが
すぐに気を取り直して
「あ、はい。こんな感じでしたっけ?」と
アッパくんを描いてくれた。


宛書きをしてもらうときに
「“松永”でお願いします。松の木の松に永久の永で」と申し出た。


すると
いぶかしげにペンを止めた大橋さんが言った。


「もしかして松永良平さんですか」


そして
その次に大橋さんが言ったひとことが
ぼくにたいせつなことを思い出させた。


「あの、guiroのチラシでコメントを書いていた……」


そうだ。
4年ほど前、名古屋から登場した
骨太なカゲロウのような
稀有な音楽性を持つ素晴らしいバンド、GUIROのために
ぼくはコメントを書いた。
そして
そのときに
どういう偶然なのか
大橋裕之さんも同じようにコメントを連ねていた。


ぼくの長ったらしいコメントとは対照的に
大橋さんは短い言葉で
GUIRO
ぼんやりとギザギザが記憶のなかで
知っているはずの言葉と音とともに重なり合って
まったく新しい体験として
心を刺激していくさまを見事にあらわしていて、
正直言って
当時ぼくは激しく嫉妬したのだ。


そのコメントは
こういうものだった。


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GUIROを漫画に例えると、ペンギン村に突如タイムスリップ(漂流)してきた小学校でペストが大流行。パニックに陥る子供たち。そんなとき偶然、村を通りがかった顔に縫い目のある天才医師。喫茶店でコーヒーを飲む天才医師。夕日にまどろむ天才医師。壁のカレンダーは2007年9月。続く・・・


大橋裕之/漫画家


GUIRO OFFICIAL SITEより引用)

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大橋さんに言われて
ひさびさにそのコメントのことを思い出し
あらためて読んでみたが
2007年にして
すでに大橋裕之の世界が
字でも表現出来ていることに
やっぱりぼくは嫉妬するばかりだ。


どぎまぎとお礼を言って
ライヴ・フロアに戻った。


BGMで
ちょうどスカートの「Taroupho」が流れていた。


「シティライツ」というカクテルは
清酒(?)に何らかのリキュールを混ぜ
つぶしたライムを落としたものだった。
ジュースやソーダみたいなゴマカシは入らない。


甘くて酸っぱくて濃い
不安定だが
よけいなもののないその酒は
大橋裕之の味がした、気がした。


(つづく、かも)