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なにかあり/とくになし

ア・スマイル・アンド・ア・リボン その3

場内にはいると
雰囲気はアフター・アワーズ


現在のNRBQのメンバーである
ギターのスコット・リゴン、
ベースのピート・ドネリー、
ドラムスのコンラッド・シュークルーンが、
そこここでなじみのお客と立ち話に興じていた。


そして楽屋口のほうに
テリー・アダムス。
なじみのお客さん数人と
いつものように楽しげに会話している。


この10日間のツアーには
サックスとトロンボーンのホーンズが参加している。
トロンボーンはドン・アダムス(テリーの兄)ではないけれど、
デューク・エリントンの最晩年のビッグバンドに
在籍経験のある名手アート・バロン。
サックスは
NRBQのホール・ウィート・ホーンズとして
来日経験もあるクレム・クレムリック。
だから、彼の顔はとてもなつかしい。


あ、ジェイク・ジェイコブスもいた。
あとであいさつをしないと。


まずはジャン・ジャンの言ったとおり、
テリーにぼくが来ていることを告げよう。


おずおずと近づいてみる。
すると向こうから話を中断して
「ヘーイ」と声をかけてきてくれた。
なぜぼくがここにいるのか
話さずとも彼はもうわかっているような気がしたが
それでもなにか言いたかった。


「トムの家に行ってきたんだ」


テリーは不意に本音がもれたようなまじめな顔をして
「あとで楽屋に来い」と
小声でぼくにささやいた。


そして
お客さんとの話を切り上げると
ぼくに手招きをして楽屋へ。


すこし話を。
ここに書けないというほどの打ち明け話ではないけれど、
ふたりだけの話を。
トムの話を。
短い言葉で尽きない話を。(つづく)