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なにかあり/とくになし

ア・スマイル・アンド・ア・リボン その14

2日目のイリジウム(1月18日)で
書いておくべきことを
もうひとつ。


この日のセカンド・セットでも
テリーは昨日につづいて
ペイシェンス&プルーデンスの
「ア・スマイル・アンド・ア・リボン」をプレイした。


そして
昨日はなにも言わなかったけれど
この日のテリーは
おもむろに足を組み
「ちょっとトム・アルドリーノの話をしよう」と
お客に向けて切り出した。


「昔、ツアーバスであちこち回ってたときの話さ。
 おれとトムはだいたいバスの後部座席にいて
 ラジカセでいろんなテープをかたっぱしから聴いてた。


 おれたちが舞台でやっていたスケッチ(ショート・コント)は
 だいたいそういうときに生まれたものさ。
 いろんな音楽を聴きながら
 「うわ! こんなひどい歌手聴いたことないな!」とか
 ゲラゲラ笑いながら聴いていたのさ。


 あるとき
 山道でひどい雨が降ってきて
 あたりはたちまち嵐になった。
 バスはめちゃくちゃにスリップしはじめて
 右に左に車はぐらぐら。
 からだを支えるのがせいいっぱい。
 そのうち大きく回転しはじめて
 さすがのおれも死を覚悟したね。


 ところが
 トムだけはおれたちとは違う行動をとっていたんだ。


 みんなが死を覚悟しておびえているのに
 トムが必死になってやっていたのは
 ラジカセでかかっているテープの
 ストップ・ボタンを押すことだったんだ!
 からだが振り回されるくらい揺れてるのに
 一所懸命ラジカセに手を伸ばして
 テープを止めようとしてた。


 そのうち車は奇跡的に回転を止め、
 おれたちは一命をとりとめた。


 落ち着いてからトムに訊いたんだ。
 「なあ、なんでテープを止めようとしてたんだ?
  おれたち死ぬかもしれなかったのに」


 トムは真面目な顔で答えた。
 「だってあの曲が人生最後の一曲じゃ
  死んでも死ねないよって思ったんだ!」


 それがトム!
 トミー・アルドリーノさ!」
 

テリーは笑った。
ぼくらも笑った。


それは
テリー・アダムスによる
最高の弔辞だったのだと思う。


そしてバンドはもう一度演奏をはじめた。


それがこの曲。
ゴッド・ブレス・アス・オール」(今度こそ、おわり)