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なにかあり/とくになし

スカートは実在した! 澤部渡インタビュー その7

スカート澤部渡インタビュー
第7回、
そして最終回。


当初は9回のつもりだったんですが
ちょい巻きにさせてもらいました。


ぼく自身も
これからのスカートが超楽しみだし、
またどこかであらためて
『ストーリー』以降の
澤部くんのインタビューが出来ることを
願ってます。


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松永 聴き手の気分も更新されるという発言があったけど、澤部くんとしてはどうなんですか? 16歳ぐらいから曲を作り始めて、今までずっと曲を作ってきて、成長? 変化? そういう手応えみたいなものはあるのかな?


澤部 手応え……、実感……という意味では、曲を作って、自分で「ああ、いい曲だな」と思えたら、すこしは成長してるんだなとは思いますけどね。やっぱり年に一曲ぐらいは重要な曲が出来てるんで。そういうのが出来たときに、「前に出来た曲より好きだな」と思えると、成長してるってことなのかもしれません。


松永 年齢なりの変化を実感出来ることって、今は昔よりずっと幸福なことだと思うんですよ。最初から手に入る情報が膨大じゃない? そういう時代に自分の曲が年々良くなっていくという実感を手に入れるのが大変だと思うんだ。お手本がいっぱいありすぎて、最初からハードルが高いから。でも、その高いハードルというか、気後れみたいな部分からも、澤部くんたちの作る音楽は自由になってきてるような匂いがする。過去の偉大なものに勝たなくちゃいけない、という妙な背伸びが必要ないというか。


澤部 そういう感じは、あんまりなかったかもしれないっすね……。考えたこともあんまりなかった。


松永 いや、これから先も考える必要ないよ!(笑)


澤部 でもね、今、実感という面でのひとつの問題として、スカートのライヴには若者が来ない! っていうテーマがあるんです!


松永 本当にそうなの?


澤部 いやあ、ここ最近は本当に集客がないというか……。(編者注:2011年12月時点の発言です)


松永 それは『エス・オー・エス』の良いところでもあり、弱点でもあるのかもね。やっぱり、あの作品はスタジオ・プロジェクトという感じで、スカートっていう“バンド”は、どういうライヴを見せてくれるのか、それがわかりにくい部分がある。ライヴのメンバーも、ソロだったり、こないだみたいにPOP鈴木さんとふたりだったり、一回一回違ったりしたじゃない? もちろんどれも澤部くんがやっている限りスカートなんだけど、今度の『ストーリー』が出たあとは、あのメンバーを中心にライヴをやっていったほうがいいと思う。


澤部 そうなんですよねー。とは言っても、ピアノの佐藤優介が、自分のバンド(カメラ=万年筆)のレコーディング(アルバム『coup d'Etat』として2月22日に発売)が忙しいこともあるんですけど、かなりナードなやつなんですよ。「僕なんか弾かないほうがいいですよ」とか言うくらいの。彼を表に引っ張りだすことが重要なんですよ。『ストーリー』の最後に入れた「ガール」も、もともと優介と共作したようなところもある曲なんですよ。2009年の学祭のために、「モテたい」というコンセプトで、優介とああだこうだ言いながら作ったんですよ。そういう経緯が後ろ暗い気がしたんで、一番最後にしたんです(笑)。


松永 でも、「ガール」は超いい曲だよ!


澤部 あんなにヨコシマな気持ちで書いた曲もなかなかないんで(笑)


松永 いやいや、アルバムの最後にあれが出てくるのがかっこいいの(笑)。でも、『ストーリー』をひとつのバンドで作り上げたのは結果論かもしれないけど、このバンドを聴いてみたいと思わせる魅力があの音にはある。


澤部 ほおー!


松永 今、スカートという存在の実在感みたいなものをそうやって出しておくのはいいと思うんだ。それが軸にありさえすれば、弾き語りだったり、いろんなスカートがあってもいい。でも、『ストーリー』を何気なく手にとって、「うわ、いい!」って思った人も、「あれも、これも、それも、どれもスカートです。いろんなスカートがあります」なんて巨大な世界図をいきなり見せられても、ちょっと困ると思うわけ。つまり澤部マンダラみたいなさ(笑)、


澤部 今、まさにマンダラ状態ですからねー(笑)。見てる人が困惑するというのも、何となくわかってるんですよ。


松永 『ストーリー』は、澤部マンダラの一番軸にあるものをストレートに見せることが出来てる。スカートの軸を作る最高のアルバムだってことなんですよ。


澤部 いやあ、それはうれしいなあ……。



松永 「ストーリー」という曲が録音されてゆく過程で、澤部くんが「このバンドで録ろう」って決めたときの高揚感ってあるわけじゃん。実は大事にしなきゃいけないのは、それだよね。一歩引いて冷静に見るんじゃなくて、自分で自分に乗っかっていく必要がある瞬間ってたぶんある。別にこの4人を死守しろと言ってるわけじゃないよ。いろんなかたちのスカートはこれからもあっていい。でも、この4人で出来た『ストーリー』の感覚は、しばらく大事にしたほうがいい。


澤部 だから、何とか4人でライヴをやりたいんですけどね。


松永 ここは見過ごしちゃいけないタイミングだと思うよ。どこかで、しかるべき機会を作って、『ストーリー』のスカートをバーンと見せるべきと思う。そういう意味では、今後の抱負というか、具体的にやってみたいことはある?


澤部 抱負っすか! 来年もレコード出したいですね。


松永 来年も出すの?


澤部 曲が出来るのなら出したいですね。昔はポンポン出来たんですけど、最近は寡作傾向なんで。


松永 まあ、それは自分に対するハードルがあがってるということだからね。ソングライター志向みたいな部分はあるの?


澤部 頼まれたら書きたいというのは、ありますけどね。来たらいいなあ。


松永 アイドル・ソングとか、書けそうだけど。


澤部 ねえ! ハハハハハ。でも、好きすぎる人だけど、作れないかもしれないです(笑)


松永 昔、森高千里だってカーネーションの「夜の煙突」歌ったんだから。


澤部 ねえ! そういうことが起きないとも限らないですから! でもなかなか自分がこの先どうやっていくべきか考えていかなきゃならないのは憂鬱ですわ(笑)


松永 でもこうやって話してると、澤部くん、音楽やめそうもないけどね。スカートの良いところは、「スカート解散!」ってならないところ(笑)


澤部 ハハハハハ! そうですねえ! ひとりだから出来ないですよ。


松永 スカートと心中ですよ、澤部渡の人生は。


澤部 なんかそれが「スカートは実在した」という松永さんの発言につながっていく感じがしますよ。


松永 まじめな話、この先、どういうふうにスカートはなれたらいいと思ってますか?


澤部 やっぱりXTCとか、yes, mama okみたいに、誰も聴いたことのないコードを弾かなきゃって思いますねえ(笑)。あと、スパークスとかムーンライダーズみたいな人たちは、60歳近くになって、どえらいアルバムを出してくるじゃないですか。60歳まで音楽を続けたいというのはありますね。それはぼくの重要なテーマで、果たして30年後に『エス・オー・エス』を作ったときのぼくくらいの年齢の人が『エス・オー・エス』を聴いたとして、「いいな」と思ってgoogleで検索かけたりしてくれるかどうかというのが勝負なような気がするんですよ。


松永 そのときにバンドのスカートが一番上に出てくるようにしとかないと。


澤部 布のスカートしか出てこないかも(笑)


松永 スカートの音楽には、決して最新型ではないんだけど、今、聴きたいと思わせる何かがあるんだよね。


澤部 新しいものって、どこかでいろいろ切捨てちゃったりするじゃないですか。古いほどいいってわけでもないですけどね。


松永 その一方で、古い音楽の情報に絡めとられて身動きとれてないような音楽でもないよ。それが『エス・オー・エス』ではまだ、いろんなスカートを試すというか、スカート・マンダラだった。それが『ストーリー』では、スカートはひとつの実在する姿になったというかね。


澤部 でも、『エス・オー・エス』というのも重要だと思うんですよ。とっちらかってる部分も含めて、スカートの根底になっているというか。


松永 『エス・オー・エス』は、要するに「澤部渡の頭のなか」ってことなんだろうけど、今度、『ストーリー』みたいな「スカートの実体」が出来たことで、逆にあのファーストの世界観もすごくわかりやすくなる。フリッパーズ・ギターで言えば、ファーストの『エス・オー・エス』が『ヘッド博士の世界塔』で、そこから逆に進んでいるんじゃないかな。


澤部 そうかもしれないですね!「逆さに進むエピローグへ」! だとしたら、今回の『ストーリー』は、ファーストの『海に行くつもりじゃなかった』っぽいかもしれないですけど。


松永 最初が『ヘッド博士』で、2枚目が『海へ行くつもりじゃなかった』って、良いことだよ。


澤部 そうですね! それはおもしろいですねえ!


(おわり)


(2011年12月初旬 渋谷羽當にて収録)


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スカート ワンマントーク&ライブ ODAIBA MUSIC CLOUD vol.1
お台場TOKYO CULTURE CULTURE


5月25日(金)
Open 18:30 Start 19:30 End 21:30 (予定)

前売り券1800円 当日券2300円(飲食代別途必要・ビール¥600など)


【ライブ】スカート(澤部渡
トークライブ・ゲスト】北尾修一(太田出版) 阿久津真一(元エピックレコード)
【企画・司会】テリー植田(東京カルチャーカルチャー・プロデューサー)


なお、この顔ぶれでの
スカートのロング・インタビューが
こちらで公開がはじまっています。


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もうひとつ。


6月20日発売のスカート初のアナログ「消失点」。
西村ツチカさんイラストのジャケットが発表になりました!


すげえ!



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