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なにかあり/とくになし

森の話 mori no hanashi その5

森は生きている、インタビュー第5回。
一応、これで最終回のつもり。


この、まだほとんどはじまったばかりのバンドの話をきくのは、とてもおもしろかった。
彼らにとっても、こういう長いインタビューは初めてだったはず。
最年少でリーダーを務める岡田くんをはじめ、やりたい音楽、言いたいことがかなりはっきりしてるのが印象的だったし、だからこそCD「日々の泡沫」のような魅力的作品ができるのだろうとも思った。


きっとこれからバンドを続けていくことで、どんどん音楽も心境も変化していくのだろうけど、まずはこの“はじまり”をとらえておきたかった。なぜなら“はじまり”はここにしかないから。


半年後とか一年後とか、あるいは何年後とかに、彼らにも、ぼくらにも、このインタビューが何かの意味を持つものになってれば、これさいわい。
ベッドルームから、あの揺れた日々から、ガラパゴスって言われる国から、気分はまたおもてに向かいつつある2013年のバンドの話をぼくはきいた。


なお、参考までに、ぼくが初めて森は生きているを見た日のセット・リストをあげておく。


森は生きている@吉祥寺曼荼羅(2013年1月16日)


1. Intro
2. 昼下がりの夢
3. 雨上がりの通り
4. 断片
5. ニール(仮タイトル)
6. 帰り道


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──ぼくが見たライヴではCDに入ってない曲もまだまだあったし、どの曲もすごくよかった。「断片」とか。「ニール」とか。「断片」って、あの歴戦のソングライターで、『ノーバディーズ・フール』の“ダン・ペン”だと思ったもんね。


増村 あの曲はおもしろい話があるんです。前に岡田くんと遊んでたときに、「増村さん、“ダンペン”って知ってますか?」ってきかれたんです。ぼく、そのころ岩野泡鳴の「断橋」って本を読んでて、そっちが浮かんだんで、「ダンペン? 断片? どの小説家の話をしよるんやろうな?」と思ってたんです。「“断片”って話? あったような気もするけど、だれの小説?」ってききかえしたら、「英語です」って(笑)。「あー、あの“ダン・ペン”ね、知らんわ」って(笑)。それで、そのあとにライヴがあった日に、岡田くんの曲とぼくの歌詞だけできてて、曲名がついてない曲があったんですよ。まだ題名を付けてない曲は「ニール」とか適当に呼んだりしてるんですけど、「じゃあ、“ダン・ペン”でいいんじゃない? どうせだから漢字の“断片”にしとこうや」みたいな感じで決めたんです。


谷口 ちょうどダン・ペンの未発表音源集が出たころだったしね。


増村 でもそれは、本当に適当に、ライヴ・ハウスのPAさん用に書いただけのタイトルだったんですけどね。


──そうなんだ。


増村 それがそのまま「断片」で定着したんです。


岡田 そのあとにも増村さんが言い出した別の曲名ありましたよね。


増村 志賀直哉を読んでたんで、この曲は「暗夜行路」にしようと思ったんです。でも、「いや、もう“断片”に決めたんで、それでいいです」って言われて(笑)。歌詞を書いた身としては、はっきり言って、歌詞の内容と曲名の「断片」が全然合ってないんですけど(笑)


──でも、サウンドはダン・ペンみたいだから、つながってる(笑)


増村 じつは、あの曲は一番までしか歌詞ができてないんです。だから、二番の歌詞を書くことであの曲を自分でも「断片」にしようと個人的に企んでいるんです。まだ書けてないんですけど(笑)。アルバムをつくるまでには「断片」として完成させたいですね。


──アルバムという話が出たけど、それはすごく楽しみ。ストックはどれくらいあるの?


岡田 ライヴでやれるのは今やってる曲数ぐらいなんですけど、それ以外にもストックはあって。アルバム一枚半くらいの分量はありますね。今も急ピッチで曲もかいてるし。


──これからライヴの回数も時間も増えるだろうし、現場で試してできあがる曲も多くなりそう。


岡田 ストックには結構いい曲ありますよ(笑)


増村 ぼくらも楽しみだよね。


──作詞作曲はどう進めてるの?


岡田 ぼくが曲で増村さんが歌詞ですね。


──やっぱり、ドラマーで歌詞を書く増村くんがM本隆じゃん(笑)


増村 まあ、その流れなら、そうなってしまいますけど(笑)。それで言うと、はっぴいえんどで言ったら鈴木茂的なポジションで曲を書いているのが竹川くんですね。


──竹川くんの曲って、ライヴでやってた「昼下がりの夢」だったっけ。あれ、いい曲だよね。


竹川 ありがとうございます。


谷口 いい曲だよね!


──その次の曲が「雨上がりの通り」だったから、よく覚えてる。下がって上がる(笑)


増村 その2曲はぼくが歌詞を書いてるんですけど、じつは対比になってるんですよ。「昼下がりの夢」という曲に「走り出す少女は」って歌詞があるんですけど、「雨上がりの通り」はその少女とのランデブーになってるという(笑)。基本は“風街”してる歌詞なんですけど、「雨上がりの通り」だけは“ロンバケ”してるんです(笑)


──竹川くんは自分で曲作りをしていくうえで、森は生きているに対してはどういう曲を出していきたい?


竹川 ぼくはあの曲で初めて作曲をしたくらいなんですよ。とりあえず曲をたくさんつくるという経験がないんで、まずはどんどんつくって提出して、バンドに判断してもらうというところから始めたいですね。ぼくはメロディが結構甘いのが好きなので、そういう曲をつくっていけたらなとは思います。


──やっぱ、そのメロウ度重視の性格は、ひいおじいさんがシカゴとかにいたね、たぶん(笑)


岡田 竹川が持ってきた曲をぼくがチェックして採用するんですけど、却下された曲を集めて、将来、竹川ソロでアーバン・アルバムをつくるというアイデアもあります(笑)


──そもそも、森は生きているは岡田くんがリーダーだけど、一番年下なわけでしょ。そこは、みんな全然抵抗ない? こうやって話をきいてると、やりずらさとかは全然なさそうだけど。


岡田 一切ストレスないですしね(笑)。みんないい人だし、ぼくのわがままに全部応えてくれるんですよ。これ以上ないメンバーです。


──今日はいないけど、フルート、サックス、コーラスという大久保くんのスタンスというか、バンドにおいての配置もおもしろいよね。あれはジャム・バンド時代の名残のようでもあるし、ceroで言えばM.C.sirafu的なスパイスにもなっているし。


岡田 管楽器はもともといれたいと思ってたんで。彼がいるだけでカラフルになりますよね。


──増村くんに森は生きているを紹介した人は“ソフト・ロック”と言ってたかもしれないけど、バンドの音はもっと全然多様性のある音だし。これは4人それぞれにききたいんだけど、森は生きているで、こういうアルバムが出来たら最高だっていうような目標にしたい作品はある?


増村 アルバムはコンセプト的にやりたいという話はしていて。夢から始まっていろいろな断片があるようなものにしたいという話は前にも出たんですね。『風街ろまん』とか。これはぼくの勝手なイメージですけど、夢をめぐるという意味ではビートルズの『リヴォルヴァー』にもそれは感じるし。「タックスマン」という現実で始まって、インドっぽい夢のイメージもあり、最後は「トゥモロウ・ネヴァー・ノウズ」で混沌としてゆくという。


竹川 ぼくは今の段階でいうとハイ・ラマズですね。アルバムなら最新作の『タラホミ・ウェイ』。実際の生楽器を使って完成されたものを作りたいと思ってます。


谷口 どうだろう。やっぱり、ザ・バンドのファーストかな。いつか行きたい境地があります。うちのバンドには岡田くんっていうジョン・サイモン的存在もいるからさ。


──『ミュージック・フロム・ビッグ・ピンク』はウッドストックの山小屋で録ったようなイメージがあるけど、実際はばりばり音のいいスタジオで録ったものを、あのモコモコに加工したんだもんね。


谷口 そういうイメージはありますね。ライヴで泥臭くやる経験をこれから積んでいって、そこでまたスタジオに入っていって、新しいスタジオ・ワークみたいなものもできると思うし。


──じゃあ最後に岡田くん。


岡田 ぼくがえらそうなこと言うとあれなんですけど、サウンド的には竹川が言ったように生楽器の良さをどんどん出していきたいです。アナログ/デジタルのどっちがいいっていうのも作り手が選ぶ時代だし、暖かみのある音もデジタルでやろうと思えばできるんですよ。そのなかでもぼくたちはもっと暖かいサウンドをアナログな方法で目指してるんで、『ビッグ・ピンク』というのも大きな目標です。けど、やっぱりぼくのなかでは『風街ろまん』が一番大きい壁で。日本語ロックの歴史自体、『風街』呪縛じゃないですけど、すべてのバンドが取り憑かれてるように思えて。風街コンプレックスじゃないですけど…。そこに一石を投じるというか、その呪縛を解きたいというのは初めてあのアルバムをきいたときからの夢なんです。


──岡田くんは家が福生でしょ。はっぴいえんどの本丸のひとつが近くにあるよね。ナイアガラ方面のメンバーがお住まいで(笑)


岡田 いまは隣町に住んでるらしいです(笑)


──あと、もうひとつきいておきたいのは、みんな若いけど、アナログ好きなんだよね。それは同世代では変わってたこと?


増村 本当に狭い世界では知り合いはいましたけどね。だけど、やっぱり一般的ではなかったですね。でもとにかくアナログ盤の音ってあったかすぎるし、すごくいいから。逆に言うと、ぼくたちはCDで育ってることはもちろんなので、おなじアルバムでCDとレコードを比べてきくのが好きなんですよね。ぼくらは“レコード・マジック”と呼んでるんですけど。


岡田 レコードでしか買えない音源もいっぱいありますしね。


──たぶん、音楽の世界って、CDになってないレコードがいっぱいあって、レコードになってないSP盤もいっぱいあって、SPにすらならずひとびとの記憶でしか伝わってない古い音楽もさらにいっぱいあって。そしてなおかつ、こうやってあたらしい音楽をやる人たちが出てくるのがおもしろいなって思う。アルバム楽しみにしてます。今、バンドの雰囲気もよさそうなんで。岡田くんの就職活動を引き換えにして、どんどんライヴもやってってほしい(笑)


岡田 アルバムのレコーディングが一段落したら、就職活動しますよ(笑)


谷口 だれも信じてないけどね(笑)


──竹川くんは先に卒業してるわけだけど、就職はした?


竹川 してないです。フリーターです。


谷口 ぼくもです。


増村 おれなんか働いてすらいない(笑)


──わるい先輩ばっかり(笑)


岡田 いやあ、みんな家を追い出されないか心配です(笑)


──就職するかわりにアルバム出しました、ってのが最高なんじゃないの?


岡田 6人いるからなー。


増村 ギャラも6分割で困っちゃうよね!(笑)


岡田 でも、これからどういう時代になるのかと思いますよね。音楽をやるというのが職業として成り立つのか。


──それはよく話題になるよね。でも、逆を言えば、音楽をつくったり、演奏したりすることをいかにお金を出す魅力のあるものにして伝えていくかということを真剣に考える時代になった。バブルの時代はもっとみんなラクに考えてたようなところもあったと思う。あまりにも簡単にミリオン・セラーが生まれていた時代だったし。あと、昔はスタジオ代もたくさんかけられてよかった、とかいう話もきくけど、今はそんな大金をかけずに済むツールもいっぱいあるわけだから、そこはアドバンテージとして考えていけるんじゃないかな。まあ、そうは言いつつ、だからこそあえてお金や人手ををかけなきゃいけないと思うような局面では躊躇してほしくないけどね。こじんまりはしてほしくないというか。「この曲は50人編成のオーケストラが必要だ」とか岡田くんが言い出したり(笑)。で、ジャンジャジャーンってやって、「うーん、ごめん、やっぱ違う、ボツで!」とか言ったり(笑)


増村 言いそう!


谷口 言いそう!


竹川 言いそう!


増村 それが岡田くんのいいところなんですけどね(笑)


(おわり/2013年2月8日 阿佐ヶ谷rojiにて)



岡田拓郎 森は生きている


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Outro.


森は生きているのみなさん、突然の取材の申し出にご協力いただきありがとうございました。
取材場所をご提供いただいた阿佐ヶ谷rojiにも感謝してます。


なお、今回同席できなかった残りのメンバーふたり(大久保淳也、久山直道)についても、後日、あらためて取材をしたい気持ちがある。それをもって完全版としたいので、これはまだとりあえずのおわりってことで。


また後日のつづきをおたのしみに。たぶん、それほど遠くないうちに。