yojikとwandaの閉じない世界 その1
「yojikとwandaの新作を聞いてほしい」と、MC.sirafuはぼくに言った。
もう一年くらい前だったかと思う。sirafuらしい、ちょっとぶっきらぼうな物言いだったけれど「今度出るやつには、僕だけじゃなくてNRQの吉田(悠樹)くんや服部(将典)くん、イトケンさんも入ってるし、バンド・サウンドになっていてすごくいいんだ。とにかくそれを聞いてほしいんだ」というような内容で、よぶんな説明がないぶんだけ本気を感じた。なにより、そのsirafuを含めたサポートの4人は、間違いなく自分の音で勝負をすることのできるツワモノ揃いだ。彼らを従えさせるだけのパワーを音楽が持つのは、並大抵のことじゃない。
そもそも、yojikとwanda、と聞いても、彼らが何者なのか、よくわからないという人も、まだ少なくないと思う。女性シンガー、yojikと楽曲の大半を手掛ける男性シンガー・ソングライターでギタリスト(ギタレレも)のwanda。単純に言うと、ふたりは男女デュオということになる。yojikの柔らかく落ち着いた歌声と、wandaのギターの相性の良さはもちろんだが、一聴した耳を撫でるようなメロディとサウンドの心地良さをくぐり抜けて飛び込んでくるユニークでビターな言葉の味わいが、じつはだんだんくせになってきて、やがて耳から離れないものになってゆく。穏やかだが奥深く、奇妙で、胸を打つオリジナリティに、すっかりやられてしまう。
デビュー・アルバムとして2010年にリリースされた『DREAMLAND』(MIDI Creative)では、アコースティックなサウンドを基調としつつ宅録的な方法で音を積み重ねた“ふたりだけの世界”だった。だが、“ふたりだけ”でありながら、yojikとwandaの作り出すには、不思議と“つつましやか”なだけの香りがしない。お互いがお互いを必要としていることは伝わってくるのだが、べったりと甘えて寄り添ったりはしていない。音楽にかかわる上での態度が対等で、勝負をしている感覚があるのだ。だから、聞く者の気持ちが妙にざわつく。じっとしていられなくなる。からだが踊りださなくても心が揺れて踊ってしまう。それは、たとえふたりきりの編成でも彼らのライヴを見れば、もっとよくわかる。歌も言葉もよく弾けて、よく踊っているのだ。
そして、『DREAMLAND』から約2年半。MC.sirafuが僕に告げたように、最強のバンド編成を味方に加えてリリースされたyojikとwandaのセカンド・アルバム『Hey! Sa!』(MIDI Creative)では、もっともっとふたりの音楽は弾けている。ジャケット・アートは、彼らが今までよりもさらに”駆け出した”ことを告げているように思えた。予告篇としてyoutubeで公開された映像を見たとき感じた予感に間違いはなかった。CDを手にして一曲目「ぼっちゃん」のイントロがファンファーレのように鳴り渡ったとき、その確信は、さらにはっきりと実感に変わった。
「閉鎖されてた」なんて歌ってても、ふたりの放つ音楽は、全然閉じてない。
ぼくはyojikとwandaのことを、とても知りたくなった。
というわけで、『Hey! Sa!』の発売を記念してyojikとwandaのふたりに行なったインタビューを、今日からこのブログで連続掲載する。
インタビューは、2013年3月14日、祖師ケ谷大蔵のカフェ・ムリウイで行なわれたyojikとwandaのライヴ(吉田悠樹と服部将典が参加)の日に行なわれた。収録はライヴのリハーサル前と、本編終了後に分けて。最初はふたり一緒に話をききはじめたのだが、撤収の都合もあって、yojik、wandaにそれぞれ単独で話をきく時間もできてしまった。だが、結果的には感じ方の違いも含めて、お互いのyojikとwandaへの音楽観がよくわかる取材になったと思う。
なお、yojikとwanda『Hey! Sa!』のレコ発ライヴは、レコーディングに参加したフル・メンバーと、対バンにザ・なつやすみバンドを迎え、5/16(木)に下北沢440で行なわれる。このインタビューがその良い露払いのひとつになりますように。当ブログへの掲載を許可していただいたyojikとwandaのおふたり、株式会社ミディに感謝します。
yojikとwanda『Hey! Sa!』
MIDI Creative CXCA-1296
2100yen (incl.tax)
2013.03.03 release
1. ぼっちゃん
2. 小田急
3. 閉鎖されてた
4. Loop
5. 挨拶を送る
6. 自伝と夢
7. 3月の雪
8. あなたのせい
9. I Love You
10. 世界の終わり
yojik / vocal
wanda / vocal, guitar, guitalele
Recording member
itoken / drums
服部将典 / contrabass, chorus
吉田悠樹 / 二胡, mandolin
MC.sirafu / steel pan, trumpet, chorus
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ーーそもそも、yojikさんとwandaさんは、いつどうやって知り合って一緒に音楽をやるようになったんですか?
yojik wandaはかつて大阪でバンドをやっていましたけど、私と知り合った当時はバンドも解散してひとりでもやもやとしてたみたいで(笑)。そもそも私は、外に出て音楽はやってなかったんです。
ーーえ? そうなんですか?
yojik 2005年の11月くらいからかな。自分でギターを弾いてカヴァー曲を歌ってみて、その音源を、ネットにしょぼしょぼとあげてたんですよ。それをwandaがたまたま聞いたんです。
wanda うん。うん。
yojik だから、実際に会わないで連絡をとりあうという状態が続いてました。
ーーお互いに顔も知らない。文通みたいなはじまりだったんですね。
yojik 本当にそう(笑)。それで、wandaのやってた曲を私が勝手に歌ってネットにあげて、それに彼がまた音を足して、みたいな。そういうやりとりが最初でした。私は人前で音楽をやる気は別になかったんです。ただ自分で好きで歌っていただけで。
ーーwandaさんが以前にやっていたのは、どんなバンドだったんですか?
wanda バンドをやってたのは、20歳だった2000年頃ですね。そのころはトータスとか音響派が流行ってたのと、僕はプログレが好きなので、キング・クリムゾンとトータスと歌ものが混ざったようなバンドがやりたかったんです。メンバーは4人でやってました。フィチーって名前のバンドです。僕はそのころはプロ志向で、エンジニアもジョン・マッケンタイアにやってもらおうとか構想してたくらいなんですが(笑)、バンド内の関係がうまくいかなくなって。
yojik よくある話よね。
wanda それでバンドがなくなっちゃったんで、そこからは宅録をやってました。
ーーyojikさんの歌を聞いたきっかけは?
wanda たまたまあるサイトで「松任谷由実の『スラバヤ通りの妹へ』がすごくいい曲だ」って書いてあるのを見たんです。その曲を知らなかったから、「どんな曲なんだろ?」と思って検索したんです。そしたら検索結果の一番上にでてきたのが、yojikさんだったんです(笑)
yojik 当時、私は違法カヴァーをネットにあげまくってました(笑)
wanda まだ規制がゆるかった時代ですから(笑)
ーーでも、一番上に出てくるくらいだから、相当人気の高い音源だったんですね。
wanda 録音はローファイなんですけど歌はいいなと思って。
ーーそれで、どんな人かはわからないけど思い切ってアクセスをしてみた、と。
wanda そ、そうですね。
yojik なんかね、最初のアクセスは、普通のコメントのひとつみたいな感じでしたよ(笑)。「こんにちは」みたいな。でも、そこに「自分もサイトがありますよ」と書いてあって。wandaっていうのも、そのときネット上に出てた名前でしたね。
wanda 作ったんです! 僕もギタレレと歌を公開するためのサイトを。
yojik あんまり期待はせずにwandaの曲を聞いてみたんですが、すごく変だったんですよ。すごい変なんだけど、なんかおもしろかった。曲がよかったんですよね。30秒くらいの曲をいっぱい作ってあげてたよね。ひとことだけの曲みたいな。
ーー日本語詞のオリジナル曲をあげていたんですか?
wanda そうです。
yojik そのころからわけがわからない歌だったんです(笑)。作り方が独特で、いろいろ考えてることは考えてるみたいだけど、実際にやりとりをしても意味がよくわからない。だけど、とにかく曲がいい、変な風に心にひっかかる、っていうのはありました。私が言うのも変なんですが、「こんなに地味な感じでやってる人が何でこんなにレベルが高いんだろう?」ってことにすごく興味が湧いたんです。
ーーそれでふたりはいつ実際に会ったんですか?
yojik 半年ぐらいしてからかな。その間にふたりでどんどんファイルのやりとりをして、曲が出来上がっていったんです。でも、私は相変わらず人前でやる機会というのもなくて。それが、あるとき、趣味で習ってたフィドルの発表会で「歌ってみれば?」と言われたんですね。なので、そのときにwandaに「手伝ってくれませんか?」ってお願いしたのが最初です。
(ここで吉田、服部が来店し、リハーサル開始。取材はライヴ後にあらためて行なうことになった)
(つづく)
「yojikとwandaアルバム『Hey! Sa!』発売記念LIVE」
5月16日(木曜)@下北沢440
出演:yojikとwanda
〈バンド編成:itoken(ds) MC.sirafu(steelpan,trumpet) 服部将典(contrabass)吉田悠樹(二胡,mandorin)〉
ザ・なつやすみバンド
○ 前売2500円/当日2800円(ともにD別)
○ 開場18:30/開演19:30
○ 予約はメールyoyaku.yowan☆gmail.com(☆をアットマークに変えてください)
および440店頭販売のみです
courtesy of MIDI, Inc.