シティ・ポップの壊し方 失敗しない生き方インタビュー その4
失敗しない生き方、インタビュー。
本編は今日で最後です。
夜の居酒屋でのロング・インタビュー。
酔いと疲れも作用して
ぽろぽろぽろっと言葉がこぼれ出す時間帯になっていて。
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──自分たちとおなじ世代や周辺で気になるバンドやミュージシャンはいる?
千葉 カメラ=万年筆は大好きですね。
今井 僕はあんまりインディー・バンドに興味ないんです。同世代じゃないかもしれないけど、踊ってばかりの国とかは出て来たときは「おおっ!」って思いましたけど。
天野 僕は好きなバンドはいっぱいいますよ。ceroとかシャムキャッツとか大好きですし、森は生きているも見るたびに刺激されますし。〈森〉を見てると「あー、うまくないとダメだな」と思ってがっかりもしますけど(笑)。本当にいろいろ聞いてますね。最近だとmoscow clubのLPも買いましたし。ミツメもすごくかっこいいし。「あんなにクールにできないな」って、そこでもまた自分で残念な感じになるんですけど(笑)
──天野くんとはライヴハウスでもよく会うね。
天野 そうですね。僕は新しもの好きなので。今度monaで一緒にやるふるえるゆびさきもライヴが素晴らしくて。彼らはみんな19歳とかなんですけど、また「これは負けるなあ」と思ってます。
──でも、〈失敗〉には勝ち負けは関係ないんじゃなかったっけ?
天野 そうですね。そういうのは関係ない場所にいる感じですね(笑)
今井 シード権を常に握ってる感じ。
──蛭田さんは最近なにか聞いてる?
蛭田 そうですね。ミツメとかですね。吉祥寺のココナッツディスクでやってたインストアも見に行きましたし。ただ私は、そんなに音楽自体、あんまり聞かないんですよ。バンドのみんなはすごくいっぱい聞いてるから、「ああ、最近そんなのあるんだ」と思って聞いたりするくらい。そんなにアンテナ張ってる感じじゃないんです。
今井 あ、俺、最近のでも好きな音楽あったわ! ルー・グワンチョンって台湾の人で、クラウド・ルーって名前で活動してるんですけど。それの台湾盤が去年か一昨年出て、それをずっと聞いてますね。東南アジアの音楽が好きで。
天野 俺も東南アジア、好き。
今井 ああ、そう? ホワイト・シューズ(・アンド・ザ・カップルズ・カンパニー)とか知ってる? あれ最高だよね。
天野 ベトナムのバンドじゃなかったっけ?(注:ただしくはインドネシア)
今井 韓国もいいよね。
天野 タイ・ポップスとか。
今井 ファンコットも熱い。現地の音源はほんとおもしろい。基本四つ打ちじゃなくて、ドッタドタドタって感じで、それをBPM200とかでやるから、もうわけわかんない(笑)
天野 感覚としてはバイレファンキとかにも近い暴力的な感じある。
今井 でも、一応クラブ・ミュージックだからね。そこがおもしろい。
──なるほどね。でも、そういうの、〈失敗〉の音楽にはあんまり反映されてないね(笑)
今井 まったくされないですね。好きな音楽は好きな音楽なんです。
(ここで千葉、トイレ退席)
千葉 (つまみの)ポテト、ちょっと取っといてね。
蛭田 なんでわざわざそういうこと言う?
天野 それ、絶対インタビューに入れるつもりだよね(笑)
──それをオチにしようとかね(笑)。狙ってる感じだよね、彼は。
今井 いいよ、千葉の、そういうとこ(笑)
──千葉くん、ライヴではリーダーっぽく見えるのにね。
今井 いや、そんなことないですよ。
蛭田 みんなから怒られてますから(笑)
今井 ね? ライヴ中はだれも彼のこと見てないですから(笑)
──え? だって手を振って「ワン、ツー」とかカウント出してるじゃん。
蛭田 あれは、本人がやりたいからやってるだけで、みんなをまとめようとしてるわけじゃないんです。自分が楽しくなってやってるだけ(笑)
──そうだったのか(笑)。てっきり千葉くんがバンド全体を取り仕切ってるのかと思ってた。たしかに今日、話をきいてるうちに「あれ? 思ってた感じと違うかな」とも思ってたけど(笑)。でも、それはそれで千葉くんっておもしろいやつだし、ほんと、つくづく、失敗しない生き方って、ばらばらな感じでつながってるんだねえ。
天野 でも、なんかさあ、曲をつくるときに、千葉のサックス・ソロとか、今井のキーボード・ソロとかを入れちゃうじゃん。なんか、それは曲を保守的にしてる感じがするんですよ。僕はポップスがやりたいけど、保守的じゃないポップスにしたい。もっと曲の展開を練ってさあ。今どきソロがある曲ってあんまりないじゃん。
──「月と南極」に関しては、あのサックス・ソロは重要だよ。あの今どきではない感じが、逆に新鮮。
天野 あの曲では、そうです。でも、他の曲とかであまりにもソロがたびたび入ってくると「ああ、またソロか」みたいな感じで受けとられちゃうんで、もうちょっと展開を練りたいんです。まあ、僕は作曲能力がないからな……。
千葉 (トイレから戻ってきて)そこは僕も考えてるところがあるんですよ。こないだSolid Afroのレコーディングに参加してきたんですよ。そこで須藤(雄介)さんに「これから〈失敗〉はどうなって行くの?」って聞かれて。僕は「そうですね、もっと学んできたことをいかして、器楽的にやっていきたいですね」って答えたんです。
天野 器楽的?
千葉 楽器のアレンジを聞かせるというか。
天野 編曲を凝るということか……。
千葉 ただ、そういう編曲を目指しつつも、どうしてもジャズの専攻だったんで、フレーズやコードの流れがあったなかにソロが乗ることに楽しさやうれしさも感じてしまうんですよ。
天野 なるほどね。
千葉 だから、たとえば器楽的に鍵盤とギターがフレーズを弾いてるうえで、サックスがひとりフリーで踊ってるとか。だったらアドリブもあって、アレンジもあっていいと思うんです。楽器が交替でアドリブを取ってるんだけど、うしろのブラスやリズム隊はちゃんとしてて、リズムも展開していって。もっとジャズ寄りにしたいというわけじゃないですけど、少人数なんだけどビッグバンドでやるような展開やアレンジを聞かせたいというのは、ずっと思ってます。
今井 がんばれがんばれ。ことごとく却下してやるから(笑)
蛭田 (笑)
天野 ceroを聞いてて、すごく構成も凝ってるのに気持ち良さがあって、驚くような展開もある。僕はそういう構築美的なところがいいんです。『My Lost City』は僕の心の名盤ですから。
今井 自分の店では売ってるけどちゃんと聞いてねえなあ。
──え? 今井くんはCD屋で働いてるの?
今井 はい。新宿の●●●で。
天野 どうせヒルクライムとかしか売れない店なんじゃないの?(笑)
今井 いや、ヒルクライム、もう売れないんだよ(笑)
天野 じゃあ、ナオト・インティライミは?
今井 それは売れた(笑)
──(笑)
今井 まあ、別に今の音楽を追っかける必要はないと僕は思ってるってことなんです。
天野 新しい音楽でも、いいのはいっぱいあるよ。
今井 アレンジをよくしたいってことはわかるんですけど、ぜったい他とおなじことしちゃダメだから。
千葉 そこから逃れるというのが音楽的な進化だよね。
今井 「5月9日」も、それをちょっとずつやっていけたらなとは思ってる。
──「5月9日」?
天野 新曲なんですよ。まだタイトルが定まってなくて。
蛭田 そう、5月9日にできた曲なんです(笑)
千葉 松永さんは一回聞いてますよ。O-nestで。
蛭田 一番最後にやった曲です。
──あれ、良い曲じゃん! そうだ、「タイトルが決まってない」っていってた。
千葉 僕もいい曲だと思いますよ。
天野 こないだ千葉が「最終電車」って付けたんですけど。
蛭田 今日却下されました。
今井 それでまた仮タイトルの「5月9日」に戻って。
蛭田 私、「赤い靴」がいいっていってるじゃん!
今井 「赤い靴」なんて絶対ダメ!
──「5月9日」ってタイトルも悪くないけど。
千葉 いやあ、レミオロメンの「3月9日」がありますから(笑)
天野 どうしよっかなー、タイトル。
千葉 言葉のことはあまちゃ(天野)にまかせるよ。(※その後、現状では「終電車(仮)」となっている)
──蛭田さんは天野くんの歌詞はどう? 好き?
蛭田 まあ、別に、なにも……。
今井 意味とか考えてないからね(笑)
蛭田 なんか、かしこそうな文章書いてくるんだなって。
千葉 「ラノベみたい」とか言ってたじゃない(笑)
蛭田 そう、「月と南極」で読めない漢字があって。「なんか高学歴ひけらかしてんなー」って(笑)
──(爆笑)
蛭田 まあでも、いいんじゃないですか。かしこそうで。
天野 なにそれ(笑)
千葉 僕は歌詞、すごく好きだけどね。今の歌詞も好きだけど、初期のはストーリーテラーみたいな感じもあって。
蛭田 ああ、そうだね。
天野 「カントリーウエスタンロードムービー」とか「アメリカ人じゃああるまいし」とか?
蛭田 ああいうのは割と好きだよ。
今井 話がわかるからでしょ、内容が。「アメリカ人じゃああるまいし」ってタイトルが先に決まってたよね。
天野 そう、思い浮かんだんで。
千葉 それで、最初は「そのタイトルでニール・ヤングみたいなのを書いて」って言われたんですけど、結局2ビートのジャズになっちゃいました。
天野 「カントリー〜」はニール・ヤングっぽいけどね。コードの単純さが。
今井 超単純だからね。
千葉 あれはなんか歌ってたらできたから、まあいいやこれでと。
天野 C、F、Gだからね。
今井 ギター始めて3ヶ月みたいな曲だよね(笑)
──初期はそうだった、ということは、最近はまた天野くんは違うモードにいる?
天野 最近は歌詞を書くときも、かなりばらばらなんですよ。1ラインごとに内容が違うくらいで。わざとちぐはぐ感を出そうとは思ってないんですけど、普段から思いついた言葉を携帯にメモってて、それを組み合わせたり、「この言葉使いたいな」というときに当てはめてる感じなんです。だから、直線的なストーリーができなくなっちゃって。でも、曲に合うかどうか、とかはぜんぜん考えてないですね(笑)。割と自分の主張を出して書いてる感じです。
蛭田 「5月9日」の歌詞は割と好きだよ。
天野 そうすか……。
──これからアルバムに向けての録音もはじまるし、ライヴを見る人もどんどん増えていくと思うんだけど、なんかやっぱり、そんな上り調子にあるバンドとは思えない雰囲気だよね。変わってるなあ、って思うわ。
今井 変な言い方かもしれないんですけど「なんで僕らのライヴを2回見ようと思うのかな?」って気持ちが、僕はどこかにあるんです。
──?
今井 僕だったら絶対イヤだから!(笑)「もう見なくていいや」と思うようなバンドだと思うんです。
千葉 そこはまた違うんじゃないかな。「最高だ!」っていう人もいるだろうし、「ピッチ悪いから聞きたくない」って人もいるわけだし。
今井 不思議だなって思うんですよ。なんかひっかかる部分というのを僕はまだつかめてないんで。ひっかかってる部分はみんないろいろあるんでしょうけど、その琴線ってなんなんだろう?
──「わかんないからもう一回見よう」っていうのも、立派なリピーターの動機だけどね。忘れられなくてもう一回食いたくなるような。
今井 ラーメン二郎だ(笑)
蛭田 二郎(笑)
千葉 二郎系ロックバンドか(笑)
今井 ロックかどうかすらわかんないよね。
天野 「ロックじゃないのにしよう」とか言ってなかった? 「ポップやろうよ」って。最初のころ、「ポップスやろうよ」って言ってた。
千葉 あんまり覚えてないな。
今井 曼荼羅に出て、「僕らはポップだね」って話を千葉としたよ。他のバンドに比べたらポップだって。
千葉 「なんだろ? このストイックな人たちは?」って思ってた(笑)。延々とお経みたいな歌うたってる人がいて、びっくりしたよね。
今井 あれに比べたら僕らはポップだってことだったね。「僕らの様相のほうがまだちゃんとしてるな」って言ってた。
天野 僕はもともとポップスがやりたいという気持ちがあるんです。
今井 ポップスしか書けないからじゃないの?
天野 間口を広く取っておいて、じつは入ってみたら違う。そういう価値転換というか、呼び寄せておいて意地悪する、みたいなことがやりたいんですよね(笑)
今井 でも、もう今そんな感じになってるよね(笑)
天野 「月と南極」聞いて、「かわいらしいポップな曲だな」と思わせておいて、ライヴに来てみたらノイズがガー!みたいな(笑)
今井 イヤなやつらだね。
天野 ほんと、僕らは性格悪いね(笑)
──「魔法」みたいな超ポップな曲がちゃんと〈失敗〉によって壊されたら、また違う展開が生まれるんじゃない? 実際、いろんなバンドの音源を聞いて、ライヴを見に行って「音源よりいい」とか「音源のほうがいいな」とか思ったりするんだけど、〈失敗〉には、そういう良い悪いで分けられる感想とは違う妙な余韻を感じる(笑)。カメラ=万年筆の佐藤優介くんと話したときも「あとに残る感じ」って言ってた。〈失敗〉には、演奏のうまさもないし、ずるく演出するようなこともできてないんだけど。
今井 みんな上手だもんね、最近の人たち。
──ばらばらなまま、強くなっていったらいいね。セオリーは知らないし、チームワークもめちゃくちゃなんだけど、最後にはなんか忘れられなくなってる感じ(笑)
今井 まだなにも始まってませんけど。
千葉 アルバム、今年中に出せるといいねえ。
今井 ほんと、そう思う。早くファーストを出しちゃって、次のを作りたい。
蛭田 どういうふうに録るかすら決まってないのに、みんなもうセカンドのこと言いはじめてるんです。
千葉 なんか今の〈失敗〉は音楽的に古臭いなという気持ちもあって。
今井 だって千葉は古臭いの好きじゃん?
天野 なんか、新進的な音楽やりたいわ(笑)
今井 じゃあ次はオール打ち込みでやる?
──(笑)今日は遅くまでインタビュー、ありがとう。ライヴも、年内には出そうなアルバムも楽しみにしてるし、『遊星都市』のブックレット版も、いつかプレミアが付くことを願って、持っておきたいと思ってる。まあ、売らないけどね(笑)
千葉 実のない話ばかりでしたけど(笑)
今井 大丈夫ですか、この取材?(笑)
(ガチャ。テープ終わる)
(第五回のボーナス・トラックへ、つづく)
千葉麻人 失敗しない生き方