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なにかあり/とくになし

伴瀬おんがくし 伴瀬朝彦インタビュー その3

伴瀬朝彦(ホライズン山下宅配便/片想い)の音楽人生とソロ活動を、本人インタビューで振り返る「伴瀬おんがくし」。今回が第三回で最終回。


でもって、24日がもう「伴瀬朝彦まつり」本番。


アナホールクラブバンドや、遠藤里美(片想い)、河合一尊との試みであるチェンバーアナホールトリニティを、これまでも事実上の伴瀬の歌が思い切り聴ける、つまり、ソロと同じことだと考えていた人も少なくないだろう。だが、やっぱり本人には結構大きな違いがあった。何よりも、本名で人前に立つ、ということには、こちらが思う以上の決意があったのだった。


最終回は、来る「伴瀬朝彦まつり」のこと、そして、制作中のソロ・アルバムのことを、今、自分の言葉にできる範囲でしゃべってもらった。


これ以上の説明は、今のところはいい。
「伴瀬まつり」をなるべくたくさんの人に見てもらいたい。
できあがってくるソロ・アルバムも楽しみにしてもらいたい。


だいじなのは、音楽で人を魅了する才能のあるこの男が、ようやくその気になってるってことだ。


では今日も本編の前に一曲。



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──曲作りはどういうふうにやっています?


伴瀬 曲はどんどんできてます。歌詞を誰か与えてくれたらすぐにできます。歌詞が難産なんです。曲と歌詞の同時進行も多いですけど、そうすると曲に乗ることで言葉がでてくる。歌詞だけ考えてると最後までたどりつかないんです。


──なるほどね、曲が最後まで歌詞を連れてってくれる。


伴瀬 思うのは、詩と歌詞は全然違うんですよ。俺は詩は書けないけど、歌詞なら書ける。曲に乗ってこそ生きる言葉があるなと。


──歌詞にあらわれるさびしさというか人恋しさというか、独特の伴瀬ワールドありますよね。


伴瀬 そうっすね。どうなんだろうな。やっぱりどこか皮肉っぽいというか。ホライズンの世界とはまったく違いますね。黒岡がいることによって言葉選びもまったく変わってくるし。


──もちろんソロの場合は自分が歌うわけだから、自分がしっくりこなかったらいやだろうし。


伴瀬 そうですね。自分が歌うときは字余りとかはいやですね。ホライズンの場合は黒岡に無理矢理詰め込めさせればいいだけなんで(笑)。そこがまたホライズンはおもしろいんですけどね。


──とんちれこーどで自分の音源をリリースしていったじゃないですか。アナホールクラブバンドであったり、チェンバーアナホールトリニティであったり。


伴瀬 リリースのタイミングとかはなにも考えてなかったですね。曲ができたから作る。アルバム作りたいから作る。それだけでした。むしろ、締切とか、要請がほしいですよ。まあ、今は自分のソロ・アルバムを作ってますけど。


──さっき、アナホールはメンバーの入れ替わりが激しかったと言ってたけど、シラフがアナホールに入るのと入れ替わりのように、伴瀬くんも片想いに参加するようになるじゃない?


伴瀬 そこからは入れ替わりが激しいですよね。片想いのイッシーもアナホールに参加してくれたり。


──田中さんが付けたがった「クラブバンド」という名前の由来はキューバの「ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ」みたいなイメージだったのかなと思ってて。あれもいろんな人が出たり入ったりする。だから、最初からどんなかたちもありうるという気持ちがあったのかなと。人が自然に出入りするのは、とんちれこーどのいろんな作品見てても思うことだけど。


伴瀬 でも俺は、そういうことはあんまり思ってなかったんですよね。まだ頭が固くて、やっぱり固定でやらないといけないと思ってました。結果的に、入れ替わり立ち代わりになってただけで。


──しかし、たとえば最近片想いのファンになった人からすると、伴瀬くんって割と職人的な感じで、自分の音楽がもうでき上がってる人に見えると思うんです。バンドをばりばり渡り歩いてきた人みたいにも見えるし。今日してるような、自分のやりたいことがあんまり定まらないままできたっていう話は意外と思われる部分も多いんじゃないかな。


伴瀬 ああ、ここ1、2年でずいぶん触れるようになったし、その時期にサポート仕事も結構多かったから、そういう職人的なイメージがついたのかもしれないですね。西荻のw.jazでアナホールやってたころとか、誰の目にも触れてないですし、そっちのほうが経歴としては全然長いですから(笑)


──個人的には、去年の4月かな、阿佐ヶ谷のrojiで、ライヴ後に自然と始まったセッションみたいなノリで、偶然お店にふらっとやってきた伴瀬くんが、みんなに「歌え歌え」って言われて「いっちまえよ」を歌ったときのかっこよさがすごく衝撃的だった。あれは野田薫さんがイギリスから帰ってきた記念のライヴがあった日だったかな。


伴瀬 そうでしたか。去年あたりから、自分主体の自覚がちゃんと芽生えてたんじゃないかな(笑)。ソロ活動自体は数年やってましたけど、やっぱり副業みたいな意識があったのかもしれない。でも今は「ソロをやってます」と言いたくて。「このバンドにも参加してますけど、ソロをやってます」と。


──今まさにソロ音源を作ってるところじゃないですか。先駆けて宅録CDRの『とろふえ』というのもライヴ会場限定で販売してるし。ソロ・アルバムを2枚一緒に作りたいという話もしてて。一枚は自分の弾き語り。もう一枚はいろんなゲストを呼んで。


伴瀬 言ってましたね。でも、2枚やるのは、ひとつひとついかないと無理でした(笑)。2枚の構想はまだあるんですけど、今は自分ひとりで全部作るほうをやっていて、年内に音録りが終わればいいなと思ってるんですけど。


──いろんな人が伴瀬の作品に関わってくるという構想のほうは、10月24日の『伴瀬朝彦まつり』がいい試金石になるのかなという感じもしてる。


伴瀬 まあ、作品と今度のライヴとは結構また別な観点ではありますけど。いろんな編成でこれまでやってきましたから、それを一晩のライヴで一気にできるのはいいですね。一番いいかたちで自分を表現できる編成でやりたいので。


──ギターもベースもピアノも歌もいけるしね。


伴瀬 ドラムだけが難しくて(笑)。遊び半分でやったことはあるんで、ちょっとぐらいは叩けるかなと思ったんですけど、レコーディングでやると一番時間がかかりますね。片想いのレコーディングでもあだっちゃん(あだち麗三郎)がどうやって叩いてるのかずっと見て参考にしたりして。「なるほどね、スネアはこの位置ね」みたいな(笑)。まあ、次に出る伴瀬朝彦ソロ・アルバムで、ドラムも聴けると思うんで聴いてみてください。


──今、レコーディングで一番気をつけてるところは?


伴瀬 歌、ですね。でも、全部気をつけてますよ。神経過敏です。一音一音に意志があるものにしたいので、音の出し方が気に入らないとすぐに録り直すし。録り音である程度満足するレコーディングにしたいんです。


──歌は、まわりを見ても、伴瀬くんほど歌える人はそんなにいないでしょ? と思うんですけど。


伴瀬 いや、ほんと、ここにきて歌に迷ってて。最近は曲によって歌い方を変えてるんです。というのは、自分を聴かせたいのではなく、曲を聴かせたいのであって、全部おなじ歌い方だと飽きるんですよ。曲に入り込んだ歌い方がちゃんとできるようになればなと思ってて。それがわざとらしくない程度にうまくできるようになればという塩梅がすごく難しい。


──なるほどね。自分を聴かせるんじゃなくて、曲を聴かす、か。


伴瀬 それってやっぱり、曲を広めたいということなんですけどね。そう思うようになったのは、いろんなレコーディングを経験してきてるのもでかくて。「これをみんな繰り返し聴くんだよな」って思うと、その場のノリでOKじゃなくて、やっぱり数日後に聴くというのも大事で、それでダメだったら録り直したい。レコーディングに毎回付き合ってくれてるエンジニアの阿部(共成)君は、たぶん、「今のテイク、なにがダメだったんだろう?」って思ったりもしてると思います(笑)


──でも、長年自由に活動してきたみたいに見えて、今が一番自分に目覚めてるっていうのが、おもしろいですね。


伴瀬 そうですね。先が短いのに、やっと目覚めました。


──いやいや、これからでしょ。


伴瀬 やらねばって感じですよ。


──まずは『伴瀬朝彦まつり』で。


伴瀬 当日は、お客さんをびっくりさせるつもりはないんです。ゲストも多いので、進行も考えて作ってますが、まずは演奏を聴かせたい。


──細かいことはネタばらしになるのであんまり言いませんが、弾き語りあり、バンドあり、何人かのゲストをひとりずつ迎えてタイマンでガチンコの音楽勝負をするコーナーもあり。このタイマンの顔ぶれはドキドキする。練習はするんだろうけど、その場でなにが起こってもおかしくない人たちばかりですよね。『伴瀬朝彦まつり』は、伴瀬というひとりのミュージシャンが、とにかく音楽重視でヴァラエティを示せる企画になってるのがおもしろい。


伴瀬 そういう進行を考えるのは好きなんですよ。インディー界隈だとそこはユルくてもよしとされてる部分があるけど、転換まで含めて、そこを自分でちゃんとしてみたいというのはあります。宮田さんという心強い企画者もいてくれるし。


──とにかく伴瀬朝彦は曲がいいし、歌がいいんですよ。だから、曲を最良のかたちで聞かせるための演出としてこれが成功したら一番いいと思います。わいわいがやがやする祭のよさもありつつ、最後はシンプルに音楽の良さが残ればいい。伴瀬朝彦の音楽が知られる良いチャンスだし、自分の名前でやっていく良い振り出しという気がする。


伴瀬 はい、そう思っております。曲のために人を集めるのが一番自然で。周りを見渡すと、みんなそういう人たちばっかりでしたね。今ちゃんとわかったんです。


──3歳でピアノをはじめて、31年。


伴瀬 31年目で、どうやって音楽をやったらいいか、なんとなくわかった(笑)。


──それって最高じゃない? 流されるようにはじめた音楽が、今ようやく自分のものになってる。「俺がやりたいのはこれだ!」ではじめて、いろんな事情とか年齢とかで流されてゆく人も多いのに。伴瀬朝彦のこれからは、すごくおもしろいと思います。


伴瀬 そうですね。そう考えると、普通と逆ですね。じゃあ、いいですね(笑)。なんかいいですね、それ(笑)



(おわり/2013年9月14日 渋谷ルノアール宮下公園店にて)


 取材協力:東京の演奏


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じゃ、このつづきはSTAR PINE'Sでってことで!


● 伴瀬朝彦まつり



日時 2013年10月24日(木) 開場19時/開演19時半
場所 吉祥寺STAR PINE'S CAFE
料金 予約2600円/当日3000円(共にドリンク別)


出演 伴瀬朝彦
   厚海義朗/issy/MC.sirafu/遠藤里美/oonoyuuki/河合一尊/
   北里彰久/白鳥良章/牧野琢磨光永渉/三輪二郎


   ゲスト写真など、より詳しい情報はこちら。→「伴瀬朝彦まつりとは


【予約】tonchirecords@gmail.com


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【追記;10月26日朝】


「伴瀬朝彦まつり」での
大団円で出演者、旧友、腐れ縁のみんながそろってやったこの曲が
あまりに素敵な瞬間だったので
メンバーこそ当日とはすこし違うけど
至福感はつたわる映像を
追加でアップしておきます。