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なにかあり/とくになし

2004年のツアーバス

もう10年前の話になるのか。


2004年の話を書かせてもらいたい。
その夏、あるアメリカのバンドの日本ツアー・スタッフとして
2週間ほどの毎日を彼らと過ごした。


折しもその夏は
彼らアメリカ人にとっては大統領選挙の夏だった。


9・11の同時多発テロを経て
時の大統領は
テロの巣窟撲滅を掲げ、
アフガニスタン空爆し、イラクに侵攻した。


その大統領が二期目の再選を目指して選挙戦を行っている
その結果が出る時期が
ちょうど彼らのジャパン・ツアーと重なっていた。


彼らは決してポリティカルなバンドではなく
アメリカン・ミュージックの楽しさを奥の奥まで味あわせてくれる
最高のバンドだったが
このときばかりはツアー中にアメリカの政治について話をしたのを今も思い出す。


誰彼かまわずつかまえて政治観を問う、とか
あの馬鹿野郎を葬り去れ、とかいうような単純で強引なものじゃない。
日常会話や音楽についての会話とおなじようなフラットさで
ときにユーモアも交えつつ
しかし、しっかりと
それは語られていた。


アーバスのなかで
メンバーのひとりは
ぽつりとこういった。


「またあいつが勝ったら、おれはもうアメリカ人をやめたいよ」


だが、選挙戦は無情にも
戦争を押し進めた現職大統領の勝利に終わった。


それでツアーがお通夜みたいに静まりかえるわけではなく
怒りに燃えたぎったわけでもない。
彼らはいつものように
どこのライヴハウスでも最高の演奏をした。
きっと心では少なからず落ち込んでいただろうに。


ツアーにホーン隊で参加した年長のメンバーは
地元に帰ると学校の先生をしていた。


ある日、彼とふたりで食事をすることになり
話題は自然とアメリカ社会のことになった。


「おれは地元に帰れば”左”っていわれてるのさ。まあ、いいんだけど」


すごく深い話をしたわけじゃないけど
そのちょっと困ったような笑い顔も忘れられない。


別のメンバーとはこんな話もした。


「日本の祝日は、いいよね」


なぜそう思うのか聞いてみると


「だって、“海の日”とか、“体育の日”とか、“子供の日”とか、
 名前がかわいいのが多いじゃないか」


そういって笑ったあとに、彼はこうつけくわえた。


アメリカの祝日は
 結局、戦争や軍隊にちなんでるのが多いんだ。
 サンクスギビング・デー(感謝祭)だって、
 アメリカにたどりついた入植者たちに
 先住民が食べ物を分け与えてくれたってルーツがあるけど
 入植者たちはそのあと結局彼らにひどいことをした。
 ぼくはそれを考えずにいるのは、いやだね」


「日本の祝日はかわいい」といわれたのは笑ったけど
「日本の祝日ってかわいいのだけじゃないんだよね」とは
うまく説明できなかった。


あれから10年経って
今日はあの2004年の夏のことを考えてる。