ギターを愛したシティボーイ Kashifロング・インタビュー その4
一ヶ月のご無沙汰をしてしまいました。
“ギターを愛したシティボーイ”Kashifインタビュー、いよいよ今回で最終回。
PPP黎明期を経て、いよいよ少しずつ陽の当たる世界に転がりはじめたKashifの音楽人生。
一十三十一、(((さらうんど)))のサポート、JINTANA & EMERALDSでの活動など、Kashifの“現代史”が語られる。
インタビューの最後に、せっかくの機会なのでKashifの協力のもと、ディスコグラフィーを掲載した。
いつかKashifオフィシャル・ホームページができるそのときまで、このブログに仮置きさせていただきます。
それでは最終回をどうぞお楽しみください。
前回までのインタビューはこちら → ギターを愛したシティボーイ Kashifロング・インタビュー
「その1」
「その2」
「その3」
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──PPPのファーストやZEN-LA ROCKのファーストが出たのが2007年。この時期からいよいよPPP周辺もフィジカルな作品をリリースしていこうという雰囲気になっていった感じがありますよね。
Kashif そうですね。もちろんみんなアルバムを出したりしたいんですけど、まずクルーを組んでいるということの自然な流れとして「コンピを出そうよ」という流れになっていきました。ぼくにとっては自分名義の作品として、そういったリリースに絡むのは始めての話でしたね。もうみんなPPPの趣向はわかってるんで、「みんなそれぞれがつくった音を集めよう」といった感じで、最終的にソロ作品だけでなくPalmStreetやXXなどの当時のPPP内のユニットの音源も集めてリリースに至ったというところです。
──この時期はまだ、「東京からちょっと離れたところにいる人たちのあいだでそういうパーティーが盛り上がってるんだな」という、ぼんやりした見え方だった記憶があります。
Kashif コンピについてはメロウでウェストコーストライクでカオスな「妄想のヨコハマ」という世界観を意識しながらも、見たことのない景色が広がる作品という気分でした。今よりかなりみんな手探りでもあり、ギラついていた部分もあり。
──さっき話してくれてたような、いろいろなパーティーのカオス的な状況の反映でもあり。
Kashif そういう環境というかパーティー感がみんなのナチュラルな側面でもあったので、それを自然に音作りに落とし込んだ感がありましたね。結構みんな初々しい気持ちでもありました。たぶん、ぼくもそうだし、曲を作るのが初めてに近いくらいの人もいたし。
冬の「A.D.U.L.T.」@OPPA-LAの明け方(2009年)
──あらためて、2007年を起点にしてミュージシャンKashifのディスコグラフィーを見渡したときに、いくつかキー・ポイントになる作品ってありますよね。
Kashif 前述した初期から関わらせてもらっているZEN-LA-ROCKくんの作品群では、彼のセカンドアルバム「THE NIGHT OF ART」で初めて対外的な作品で自分のコーラスやヴォーカルをピックアップしてもらえたことも印象深い事件だったんですが、自分のなかでさらに大きなものとしては、やはりLUVRAW & BTBの『ヨコハマ・シティ・ブリーズ』(2010年)と『HOTEL PACIFICA』(2011年)の二枚ですね。ぼくは数曲にギターとベースで参加しただけなんですけど、やっぱり彼らのアルバムや、アルバムの前にリリースしてブレイクした7インチの「ON THE WAY DOWN」には、アンダーグラウンドヒットとはいえ「PPPからスターが出た」という感覚がありました。それまでPalm Streetが細々とパーティーでの生ライヴの面をPPP内で担ってた部分を、LUVRAW & BTBが出てきて、完全にそれを拡張して、もっともっとはるか外に広げていったんです。
とにかく彼らの存在がPPPにとって巨大だったというのはもう明確な事実でした。彼らがいて、ぼくもそこにギターで参加することによって、いろんな現場に出て、いろんな人とそれまでの倍以上のペースで会うことになって。「LUVRAW&BTBのギターを弾いてる人」という出会い方のおかげで、最初からいいコミュニケーションがとれることも多かったのが本当に幸運だったと思いますし、さきざき絶対に出られないと思ってたLiquidroomやUNITにも出ることができましたし。グループが始まる、曲を作る、アルバムをリリースする、各種プロモーションを経て人気が出てくる、色んな人とであう、次第にライブ時にお客さんも自分たちの曲を歌ってくれるようになるとか、そういった昔夢想していた一連の流れを実際に体験させてくれたのがLUVRAW&BTBでした。僕はLUVRAW&BTBというタッチャンとカッチャンに甲子園に連れてってもらったおっさんの南ちゃんみたいなもんだと思うことがときどきあります(笑)
──音楽版『タッチ』(笑)
Kashif このあとも僕を色んな甲子園に連れて行ってくれる友人達と幸運にも出会う事になりますが、その要因自体を作ってくれたのもLUVRAW & BTBでした。彼らがいなければなにも始まらなかったですし、ある種、現状のすべての原点だと思っているので本当に感謝しています。
──なるほど。
Kashif そのあとで大きいのは、一十三十一『CITY DIVE』(2012年)。この前に、すでにJINTANA & EMERALDSが結成されているんですが、もともと一十三さんはJINTANAくんの同郷の友だちだったんですね。JINTANAくんもぼくとおなじくメタル好きでもあるんですけど、同時にドゥーワップ好きで、そういうグループをいつかやるのが夢だったみたいです。そして、ついにそういうグループをやるタイミングが来たということでぼくも誘われて。一十三さんには「オールディーズ寄りのバンドを始めるけど、誰かいいヴォーカリストいないかな?」ってJINTANAくんが相談したら、「わたしやりたい!」っていわれたみたいで、「それなら勿論是非!」という流れだったようです。まあ、EMERALDSは結成はしたものの、みんな忙しいうえに初めてのプロセスだらけで超スローペースで物事が進んでいくんですけど、そのなかでいろいろやっているうちに一十三さんとぼくもいろいろと疎通していくようになって。ぼくも一十三さんも、もうユーミンが大好きで、とにかく神なんです(笑)。そういったタイミングで一十三さんが新しいアルバムを作ることになって、その制作に誘ってもらえたんですよね。正直、ぼくは実績もぜんぜんなくて無名だったのに、そういった流れのなかで参加させてもらえることになりました。
PPP「Old Fashion」リリパ時のJINTANA&Kashif(2011年)
──『CITY DIVE』はぼくも大好きなアルバムで、今でも夏じゃなくても聞くんですけど、あのアルバムを魅力的にしているのは、流線型のクニモンド瀧口さんの大きな貢献に加えて、PPPメソッドみたいなものが注入されているからだと思いますよ。
Kashif ありがとうございます。
──なんというか、色気のある感じやスリリングな感じとか。品の良さや洗練性だけじゃない部分がありました。もちろんDorianの参加も大きいし。
Kashif そうですね。あと、やはり自分にとって過去の参加作品やアルバムで外せないのはDorianくんのファースト『メロディーズ・メモリーズ』とセカンド『studio vacation』の両方で、アルバムのリード曲(ファーストでは「Morning Calling」、セカンドでは一十三さんがヴォーカルで参加してる「summer rich」)に参加させてもらったことですね。
アルバムもそうですけど、彼のPVから自分のギターの音がガッツり聞こえたときはかなりうれしかったのを覚えています。バックグラウンド的に使われがちな自分のギターが作品内の主たるサウンドキャラクターとして扱ってもらえていて感激しましたね。その楽曲がTVCMで使われた事もあり、おかげさまでテレビから自分のギターの音が聞こえるという人生初の経験もさせてもらいましたし。そんななか彼も『CITY DIVE』制作に参加することになって。ギタリストとしての活動を主にやってきたぼくが、Dorianくんとおなじ制作者としてアルバムに収まれることはかなりうれしかったですね。クニモンドさんもそうですけど、ぼくからしたらずっと上のレベルの人たちと一緒に仕事させてもらえたことはとても大事件でした。
Dorianセカンド・リリパ@www(2011年)
──しかも『サマーブリーズ'86』では、その一十三さんとヴォーカリストとしてデュエットまで。
Kashif コーラスではなく、ヴォーカリストとしてのデビューに近い作品が一十三さんとのデュエットになるとは、、まさかそんなこと考えたこともなかったので衝撃でした(笑)
──あの歌声は、大滝さんとか、鈴木茂に通じる感じがあって、大好きです。
Kashif 「細野さんの声に似てる」とも以前いわれたことがあるんですけど、ダブル映えする声ですよね。一本だけだと頼りない。文系っぽいって感じです(笑)
「CITY DIVE」リリース時の一十三十一ライヴ@Billboard Tokyo(2012年)
──おなじ路線で制作された一十三十一のアルバム『Surf Bank Social Club』(2013年)『Snow Bank Social Club』(2014年)では、作曲もやってますよね。。
Kashif 『CITY DIVE』のときはアレンジはしてるんですけど、まだ作曲はしてなくて。『Surf Bank Social Club』で初めて曲を書いたんですが、その次のアルバム『Snow Bank Social Club』では更に多くの曲を書かせてもらいました。二枚のアルバム共に人生初のアルバム・リード曲を担当させてもらえましたし、とても良い経験になりました。
──ちょっと時系列を整理すると、(((さらうんど)))やJINTANA & EMELARDSよりも前に、すでにCrystalくんとはイベントやパーティーでPalm Streetの一員として知り合っているんですよね?
Kashif そうですね。じつは2007年頃のパーティで知り合った後、CrystalくんのやっているTraks Boysのアルバムにギターで参加するというオファーをもらったことがありました。でも事情があってそれはなくなってしまったんですけど、そのCrystalくんとイルリメくんたちが今度ガチンコで(((さらうんど)))というバンドを始めようというときに、ギターでのサポートのオファーをあらためてもらったんです。
──そこで、ぼくが2010年12月28日にO-nestで初めて見た(((さらうんど)))の初ライヴにつながっていくんですね。あのときは、たしか曲がなくなって、アンコールでシュガーベイブの「DOWN TOWN」やってました。歌詞もうろ覚えでめちゃめちゃだったけど、楽しかったことを覚えてます。
Kashif そうですね。ぼくが昔カヴァーしたことがあって覚えていたので、ギターでコードだけはギリギリ弾いてるという感じでしたね(笑)
──あの時点ではまだファッションもばらばらで、(((さらうんど)))の方向性や全体像は決まりきってない感じもしたんですけど、すごく新しいポップスに挑戦してる感じがありましたよ。佐野元春の「JUJU」のカヴァーにもびっくりしたし。
Kashif ぼくはシティ・ポップというものに対して愛憎が半々ぐらいあって、シティ・ポップ然としすぎた方向へ傾倒しすぎててもおもしろくないなと思ってるんです。「メジャー7th並べて、メロウな進行にして、ソウルフルな歌を乗せて、ちょっとブレイクを作ってソウル・マナーなビートにすればいい」みたいな発想が、ぼくはあんまり好きじゃなくて。もっとそこに毒や挑戦を盛り込んだものが好きだと思っていたなかで、(((さらうんど)))に出会って。(((さらうんど)))もシティ・ポップとかいわれてますけど、このバンドはそう言いわれつつも、そんな枠をこえてもっと広義のポップスのフィールドに破壊的に飛び出そうとしているなと思ったんです。もっともっと先のモードを相当見てるバンドだと思うんです。やっぱりそういうトライのある、未来を視野にいれたグループにオファーをもらえたことはすごくうれしかったですし、ぜひやりたいと思いましたね。
──そうやってどんどん人目に付く存在になっていって。そして今はスチャダラパーのライヴ・サポートでもギターを弾いているんですから、出世すごろくみたいです。
Kashif スチャダラパーさんとは、去年の年末のワンマン・ライヴ2本から関わらせてもらっていますが、サイプレス上野とロベルト吉野とスチャダラパーさんはおなじ事務所なので、上野くんたちののライヴでぼくらが対バンしたり、ギターで参加したりしているのを見てくれてるなかで、たぶん自分を認識して頂けたんじゃないかと思っています。サイプレス上野君の結婚パーティの場でオファーをいただいたんですけど、夢にも思ってなかったからびっくりしました。
──いきなりの大抜擢ですけど、Kashifのギターの魅力を知ってる側からすると、最高の人選に思えました。結果として、これまでやってきたことの積み重ねが今につながってるとも思うし。
Kashif ぼくはメタルばっかり少年時代に弾いてたんですけど、「サンプリングで乗ってるギターがかっこいい」と思ったのもあって、高3から大学にかけてやっとヒップホップを聞くようになったんですよね。そこでファンキーもののカッティングをコピーしていく中でそういったプレイが染みついていたので、のちにそっちにもわりとスムーズに対応できたし、ヒップホップやループものでギターを弾くのはすごく好きなんです。それに「もし日本の大先輩クラスのヒップホップ・アーティストのなかでギターを弾けるとしたら誰が一番いいか」と聞かれたら勿論自分に取っては即答でスチャダラパーさんですし、それがいきなり実現したのでもう最高のモチベーションで臨めました。
──こうやって主体的にかかわっているもの、頼まれてやっているもののすべてに取り込まれきらない感じで収まっているからおもしろいし、そこでみんながKashifという存在が気になっているという部分もあるんじゃないでしょうか。
Kashif ありがとうございます。LUVRAW & BTBもそうだったんですけど、以前は制作面ではギターのフレーズを8小節くらい渡して自由に編集してもらうというケースが多かったんです。正直そこまで作業量も多くないなかでリリースの際にギターとしてクレジットしてもらうのってすごい幸運だなと思ってました。結構いつも思うんですけど、自分のギターってすごく普通で、基本に忠実なことしかやってないんですけど、それをおもしろがってピックアップしてくれるアーティストさん側の音や活動と重なった時に初めてユニークなシルエットになったり、その人達の発想や処理のおかげで、普通にカッティングしてるだけのギターがかっこよく見えてるんだなあと思うことが多いです。あと、ああいうすごくかっこいい音楽のなかに楽器屋の店員みたいなやつがギターバカ丸出しで弾いてたらその組み合わせもおもしろいかなとも思っているところもややあります(笑)
──頼まれたことをやっているんだけど、頼まれたようにやってるだけじゃないという部分もあるでしょ。
Kashif そうですね。最近友だちからギターをオファーされたときのぼくの毎回の返し方が「オファーされたプレイ+自分で好きに弾いてみたフレーズをいくつか」という感じのセットでレスポンスすることが多いので、まさにそうかもしれません。後者は別にいらなければ削除しちゃっていいし、念のため素材として付けておきます、という感じで。Dorianくんと一十三さんの「summer rich」でも途中でフュージョンっぽいギター・ソロがあるんですけど、確かあれも頼まれてないのに勝手に弾いて送って、それをDorianくんが使ってくれたというパターンだったと思います。もちろん、全部まったく使われないこともあるんですけど(笑)
──なんか、謙虚なのに過剰ですね(笑)。人生に一貫してる。
Kashif それ、いい得て妙かもしれません(笑)
──そして、超スローペースで活動してきたJINTANA & EMELARDSは、いよいよこの6月にファースト・アルバム『Destiny』を出しました。
Kashif サポート的活動がほぼすべてだったので、自分がメンバーとして参加したバンドでがっつりアルバムをリリースするというのは、実は今回のJINTANA&EMERALDSがうまれて初めての経験になります。立ち上げの最初からリーダーのJINTANAくんとふたりであーだこーだ言いながらやってきてやっとたどり着いたかんじですね。
──ふたりで意見を出し合って、いろいろ決めていって。
Kashif そうですね、曲も作って、アレンジもして。ただ、ぼくは曲を作ったりするのは好きなんですけど、それをどう運んでいくかとか、どういう曲をカヴァーするかとかは知識が足りない所もあるのでJINTANAくんが結構考えてくれているんです。あと、この辺のサウンドに精通していてトラックを作れる人がもうひとりいるといいなということでCrystalくんを誘いました。もともと7インチ「Honey / Runaway」(2012年)を作るときは、Crystalくんにはリミックスをお願いする予定だったんです。Crystalくんは大滝さんやオールディーズ大好きだし、主旨も共感してくれるはず、と。そしたら、話してるうちに「あれ? Crystalくんもメンバーになったほうがいいんじゃない?」みたいな感じになってきて、それをあらためて伝えたらたら快諾してくれました。現状では主にミックスとアレンジの担当でもあるんですが、彼がいてくれるおかげで豊富な知識量によってカヴァーの選曲の深みもでますし、リリースに伴ってスペシャルなオールディーズ・ミックスCD制作を依頼できたりと。そういった諸々の面でもJINTANA&EMERALDSの活動にはどうしても必要な人でしたね。
JINTANA & EMERALDSジャケット撮影時の男子チーム(2013年)
──JINTANA & EMERALDSのライヴでの自分の役割はどういうものだと考えてますか?
Kashif じっさい現場だと3人のガール・シンガーたちのコーラス・ワークを音響面も含めどう再現するかが一番重要だと思っているんですが、そういったハーモニーやグルーヴを意識しながら陰日向になれるようなギターを弾くことですね。
──オールディーズで、ガール・コーラスで、打ち込みで、ということになるとスタジオ・プロジェクトっぽい頭で考えたものになりがちだけど、やっぱりそこの根っこにPPPがあることで現場発信の感覚がありますよね。ドリーミーだし、ある意味、サイケデリックですらあって、単なる「懐かしさ」じゃなく、その場を焼き尽くすような燃焼感もある。そういうところにクレイジーケンバンドの横山剣さんも惹かれて、アルバム発売に寄せてのコメントを出してくれたんだと思いますよ。
Kashif 剣さんからアルバムへのコメントを頂けたことは本当に感動しました。もっともこのアルバムを聞いていただきたい方の一人でしたので。PPPのメンバー全員そうだと思うんですが、剣さんは心の師匠というか先輩と言いますか、そういった存在なので感無量でした。ぼくもいつか剣さんにお会いできたらうれしいなと思っています。
──きっと近いうちに会えると思いますよ。大滝さんに会って何時間もしゃべったんだから、剣さんに会ってもやっぱり「失うものはない」でやっちゃってください。
Kashif そうですね。失うものはなにもないですから。
──そしてKashifのソロ・アルバムというのも聞いてみたいし。
Kashif ありがとうございます。そうですね、今の自分のなかでの一番大きなタスクが、ソロ・アルバム制作だと考えています。いいタイミングが訪れたと思えるところもありますし、ぜひ実現したいです。
──聞きたいです。歌ものあり、インストあり。
Kashif 宅録作品なので、波に乗ったらガーッと勢いに乗って進められる可能性がわりと高いとは思っているので、それだけにGOするのに重要なのは結局自分がいつその気になるか次第なんですけどね。今までのいろんなこともあったんで、この歳で初めて出すソロアルバムという意気込みに見合ったものを作れたらとおもいます。
──助けてくれる人もいっぱいいるでしょうし。今までこれだけいろんな人を助けてきたんだから(笑)
Kashif でも、そこは現時点では逆の発想で、人の作品にたくさん参加してきたんで、ソロ・アルバムは、人にお願いするのは最小限にして、極力自分だけでまずは作ってみようかなとも思ってます。その一枚で自分の世界観を提示できるようにしたくて。イメージはもう具体的にできてるんです。ちょっと白人っぽい感じのあるチルウェイヴっぽいポップスで、音数少なめ、コーラス多めみたいな。
──シカゴのNumero Groupから出たネッド・ドヒニーのデモ音源集みたいなイメージをなんとなくしてしまいますね。いずれにせよ、これまでのシティ・ポップとかAORの枠を乗り越える可能性のあるものになってほしいです。
Kashif そうだ、あと、今年の課題として、ピン芸人活動をもっとがんばっていきたいというのがあるので、ギターDJの現場もどんどん増やしていきたいですね(笑)
──以前、阿佐ヶ谷のrojiでやった自分の好きな曲をDJで流しながらそれにあわせてギターを弾きまくるというDJ! メロウからメタルまで弾きまくって、あれは最高でした。
Kashif ありがとうございます!
──ロング・インタビュー、ありがとうございました! では、アウトロとして、あえて究極の質問をさせてください。好きなギタリスト3人を挙げてください。
Kashif 単純に好きなギタリストとして挙げるなら、山下達郎さん、プリンス、あと、ザック・ワイルドですね。
──なるほど。達郎さんがギタリストに入ってるんですね。あと、プリンスも、たしかアメリカのアンケートで「もっとも過小評価されているギタリスト」ランキングの首位になったんですよね。では、好きなギター・ソロとして挙げるならどれですか?
Kashif ふたつあります。大滝詠一さんの「雨のウェンズデイ」での鈴木茂さんのギター・ソロですね。あとはエリック・クラプトンの『アンプラグド』がすごく好きで、そのなかの「オールド・ラヴ」の長尺のソロが好きです。たぶん、インプロで相当長い小節数あるんですけど、それが素晴らしすぎて。始まってから終わるまで、そのソロには歌しか詰まってないんです。惰性の音がなくて、完成度が高すぎて、もう芸術的なんです。「雨のウェンズデイ」のソロは短い尺ですが、そういう歌心というか、流麗なメロ感が最高に詰まっている点がやはり大好きですね。
──ギタリストとして、のみならず音楽家として強い影響を与えた人たちは、それこそこのインタビューでもたくさん出てきましたけど、決定的な存在として、あえて挙げるならだれになります?
Kashif 山下達郎さん、細野晴臣さんですね。ほぼそのふたりしか聞いてない時期がありました。大学時代に自分に音楽マナーをいろいろ叩き込んでくれた音楽インテリの友人が、特に推していたことで自分もハマりまくってしまったんです。達郎さんはソウルやポップスの面を、細野さんは音楽のすべてを考える際に自分のなかの絶対的な基準といえる存在になっています。達郎さんには、まずシュガーベイブから入ったんですが、大学在学中の半分くらいは達郎さんのことしか考えてなかったんじゃないかってくらいハマりました。レコ屋をまわって達郎さんのアナログゲットして、コードやカッティングをコピーしてはそのルーツになっている音楽も探ったりして。ちょうど当時フリーソウルムーブメントまっただ中だったので、そういったレアグルーヴ物との相乗効果でさらに達郎熱は活発化しました。自分の中で神格化されたってい言えるぐらいの達郎ファンとしてのピーク時に自分が初めて迎えたリアルタイムリリースである『COZY』(1998年)が発売され狂喜しましたね。そしてファンクラブ会員の友達のはからいでNHKホールへツアーを初めて見にきました。あのときの感動は今でも忘れられないし、最高のミュージシャンシップの持ち主であることへのリスペクトは今も変わりません。ネットの記事で達郎さんが(((さらうんど)))のアルバムを聞いたとコメントされてることが過去にあったんですが……。
──すごい。そうなんですね。
Kashif 自分のギターの音が達郎さんの耳に現実問題届いたかと思うと、今までの悲喜こもごもいろんなことが報われた気持ちになって、最高に最高に感無量でした……。
──では、細野さんについてもコメントを。
Kashif 細野さんは友人に教えられたはっぴいえんどから入ったのですが、その後のソロやトロピカル三部作、80年代の歌謡曲ヒットメーカー時代やアンビエント&テクノ期から最近のものまで、やはりどんどん追って聞くようになりました。知れば知るほどその振り幅の広さと作品のクオリティの異様なまでの高さ、そしてその全体から見えるユーモアを感じさせる自然体のキャラクターの深みといいますか、そういったところまで含めとことん好きになっていきました。コード感やメロディ、アレンジなどは当然最高に大好きすぎるんですが、自分的には音楽に対する切り込み方というか目線といいますか、そういった点が一番好きなところかもしれないですね。いい音楽を聴いて、自分のなかになにかが溜まっていって、「さあ曲を作ろう」となったときにまず最初どの視点から切り込もうか、という重要なタイミングで自分の中で勝手に思い込んでいる細野さんの視点のようなものをオーバーラップさせることが多いです(笑)。もちろんはるか遠く及ばないのですが、甚大で多岐に渡る音楽仕事すべてのクオリティの高さや深さ、驚異的な楽曲の耐用年数の強度など含め、これからも僭越ながら指針にさせていただきたい、地球で間違いなく一番リスペクトしているアーティストが細野さんです。
──では最後に、ある意味音楽以上に究極の質問をします。好きな漫画作品を3つ挙げてください!
──上村作品の魅力はなんですか?
Kashif あの人の魅力は昭和時代のエロ・グロ・ナンセンスとか、不幸とか悲しみなどのある種、負の部分からうまれる美しさだと思ってるんですけど、今でも通じる古くならない画力の突出感というか、昭和と現代のハイブリッド感があるんです。あとはもう、ギラギラしてますよね。でも、『関東平野』は彼のなかでは一番ほのぼのとした部分がある異例の作品なんですよね。半生記でもあるし、その硬軟織り交ぜた絶妙な質感の人間ドラマといった感じがすごく好きなんですよね。
──あとは?
Kashif うわー、今、部屋の本棚がぼくの頭のなかでがーっと展開されてます。
──まあ、この夜にたまたま選んだ3作ということでかまわないので(笑)
Kashif うーん……。宮谷一彦、真崎守、つげ兄弟あたりの劇画物も本当好きなんですが……、パッと今思いついたんですが、山本直樹の『僕らはみんな生きている』が異様に好きですね。あれは原作者は別のかたですけど。当時のスピリッツの連載時にも読んでましたし、ほかの山本作品もいくつか所有しています。
あと、手塚治虫でどうしても一作挙げたい気がするんです。うーん、自分的にはやはりあえて「シュマリ」ですね。
あ、あと思いついてしまったので4作目になっちゃいますけど言わせてください、最後の一作は『大長編ドラえもん』の『のび太の魔界大冒険』で!(笑)
──ばっちりです! 長い時間、ありがとうございました!
(おわり/2014年6月、阿佐ヶ谷Rojiにて)
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Kashif DISCOGRAPHY(協力:Kashif)
2007
『Live at YOKOHAMA / PalmStreet』 (2007)
・全曲でGt
『ZEN-LA-ROCK / ZEN-LA-ROCK』 (2007/7/25)
・「LAST RESORT」:Gt
・「OUTRO」:作編曲&Gt
『PanPacificPlaya / PanPacificPlaya』 (2007/10/2)
・「INTRO」:Gt
・「MAGNETIC LUV」:作編曲&Gt
・「YUHYAKE」 (PalmStreet名義):作曲&Gt
・「OUTRO」:Gt
2009
『Juicy Fruits / V.A.』 (2009/2/18)
・「真夏の果実 / LUVRAW&BTB」:Gt&編曲
『SEASIDE TOWN / V.A.』 (2009/8/5)
・「忘れられたBIGWAVE / LUVRAW&BTB」:Gt
『PanPacificPlaya2 / PanPacificPlaya』(2009/9/9)
・「PPPCM (I LOVE YOU)」:作編曲&Gt&Vocal
・「SUMMER BREEZE (PART2)」:編曲&Gt&Vocal
・「OUTRO」:Gt
『A LONG VACATION from Ladies / V.A』 (2009/11/4)
・「Pap-Pi-Doo-Bi-Doo-Ba物語」(Vocal:行川さをり):Gt&一部シンセアレンジ
『THE NIGHT OF ART / ZEN-LA-ROCK』(2009/11/18)
・「THE NIGHT OF ART」:作編曲&Gt&Cho
2010
『キラキラ魔女ッ娘Cluv / V.A.』(2010/2/10)
・「見知らぬ国のトリッパー」(Vocal:磯山さやか):編曲&Gt&Cho
『THIS NIGHT IS STILL YOUNG / やけのはら』(2010/8/4)
・「DING DONG DANG」:Gt
『ヨコハマ・シティ・ブリーズ / LUVRAW&BTB』 (2010/8/4)
・「FUNK ALIVE feat.ZEN-LA-ROCK」:Gt
・「LAST NIGHT」:Gt
・「ESCORT」;Gt&Ba
・「SUNSET」:Gt
『メロディーズ・メモリーズ / Dorian』 (2010/9/15)
・「Morning Calling」:Gt
2011
『PanPacificPlaya Presents"OlsFasion"Vol.1 / PPP&V.A.』(2011/4/13)
・「BAYSIDE TERRACE / BTB」:Gt
・「Wave,Life,Wave...」:作編曲&Gt&Ba
『SUMMER VACATION EP / ZEN-LA-ROCK』(2011/8/3)
・「SUMMER VACATION」(Prod by YASTERIZE):共作曲&Gt&Cho
『studio vacation / Dorian』 (2011/8/10)
・「summer rich feat hitomitoi」:Gt
『HOTEL PACIFICA/ LUVRAW&BTB』 (2011/10/19)
・「WARM SUMMER NIGHT」:Gt
・「GIVE ME LITTLE MORE」:共編曲&Gt
・「ROOM NO.609」:Gt
・「PUSSY LIGHT」:Gt
・「DELIGHT IN RE-CREATION」:Gt&Ba
『WINTER GIFT / ZEN-LA-ROCK』(2011/12/14)
・「NEW JACK YOUR BODY feat.BTB」(Prod by grooveman spot):Cho
2012
『(((さらうんど))) / (((さらうんど)))』(2012/3/7)
・「夜のライン」:Gt&Ba
・「ジュジュ」:Gt
・「サマータイマー」:Gt
・「陽炎リディム」:Gt
・「Gauge Song」:Gt
・「タイムリープでつかまえて」:Gt
・「冬の刹那」:Gt&Ba
・「Skyper」:Gt
『MUSIC EXPRES$ / サイプレス上野とロベルト吉野』(2012/3/7)
・「契り?番外地?」:Latin Quarter氏との共作トラックを提供
『HONEY / RUNAWAY / JINTANA & EMERALDS』(2012/3)
・「HONEY」:Gt&Cho
・「RUNAWAY」:作編曲&Gt&Ba&cho
『CITY DIVE / 一十三十一』(2012/6/20)
・「恋は思いのまま」(Prod by DORIAN):Gt
・「ハーバーライト」:編曲&Gt&Ba&Cho
・「サマーブリーズ`86」:Vocal
・「サマータイムにくちづけて」:編曲&Gt&Ba&Cho
・「グラスに浮かべたノンシャラン」:編曲&Gt&Ba&Cho
『7泊8日 / VIDEOTAPEMUSIC』(2012/6/20)
・「ポリネシアン観光センター」:Gt
『LA PHARAOH MAGIC / ZEN-LA-ROCK』 (2012/7/18)
・「GREAT SUMMER VACATION」(Prod by YASTERIZE):共作曲&Gt&Cho
・「DREAMIN`」:作編曲&Gt
『Pan Pacific Playa 3 / Pan Pacific Playa』(2012/08/31)
・「PPPCM ~After the Wave~」:作編曲&Gt&Cho
・「お天気雨 / LUVRAW」:Gt
『十字架 / 伏見直樹』 (2012/9/5)
・「十字架-La Novia-」:Gt
『サーカスナイト / 七尾旅人 Analog Single Limited Edition』(2012/11/14)
・「サーカスナイト(Seaside Magic of L&B)/ Remixed by LUVRAW&BTB」:Gt
『君の好きなバンド / 鴨田潤 12inch Analog』(2012/12/7)
・「君の好きなバンド / Crystal Remix」:Gt&Ba
『ICE ICE BABY / ZEN-LA-ROCK』(2012/12/19)
・「ICE ICE BABY」(Prod by grooveman spot):Cho
2013
『JOYPACK DRM / サイプレス上野とロベルト吉野』(2013)
・「SECRET 1DAY」(Prod by grooveman spot):Gt
『Surfbank Social Club / 一十三十一』 (2013/6/19)
・「LAST FRIDAY NIGHT SUMMER RAIN」:作編曲&Gt&Ba&Cho
・「DOLPHIN」(Prod by DORIAN):Gt
・「STARDUST TONIGHT」(Prod by grooveman spot):Gt
・「PRISMATIC」:作編曲&Gt&Ba&Cho
・「BEFORE VELVET HOUR」:共作曲&編曲&Gt&Cho
・「FELL LIKE BAYSIDE LOVE」(Prod by grooveman spot):Gt
・「surfbank social club 2」:共作曲&編曲&Gt&Ba&Cho
・「ENDLESS SUMMER HOLIDAY」:編曲&Gt&Cho
『NEW AGE / (((さらうんど)))』 (2013/7/17)
・「SIGNAL SIGNAL」:Gt&Ba
・「Imagination.oO」:Gt&Ba
・「きみはNew Age」:Gt
・「Soul Music」:Gt
・「Neon Tetra」:Gt
・「空中分解するアイラビュー」:Gt
・「半径1mの夏」:Gt
・「Swan Song`s Story」:Gt
・「Hocus Pocus」:Gt
『真夏の果実 (S.A.S cover)/ KASHIF』(2013/8)
・PPPサイトより期間限定無料配信:編曲&Vo&Gt&Cho
『6月のパルティータ / あだち麗三郎』(2013/11/6)
・「ベルリンブルー」:Gt
『midori / Dorian』 (2013/11/6)
・「Bird Eye Freedom」:Gt
『わらって.net・Myかわいい日常たち / lyrical school』(2013/12/11)
・「わらって.net」(Prod by イルリメ):Gt
『SUNSET (LUVRAW&BTB cover)/ KASHIF』(2013/12)
・PPPサイトより期間限定無料配信:編曲&Vo&Gt&Ba&Cho Mixed by Crystal
2014
『Snowbank Social Club / 一十三十一』(2014/1/29)
・「SnowbankSocialClub1」:作編曲&Gt&Cho
・「Catch Me in the Snow?銀世界でつかまえて?」 :作編曲&Gt&&Cho
・「SnowStormLoneliness」:作編曲&Gt&Cho
・「SnowbankSocialClub2」:作編曲&Cho
・「ParkSuite feat. BTB」(Prod by grooveman spot):Gt
・「AwakeningTown」作編曲&Gt&Ba&Cho
『DESTINY / JINTANA&EMERALDS』(2014/4/23)
・「Welcome to Emerald City」:Gt
・「18 Karat Days」:作編曲&Gt&Ba&Cho
・「Emerald Lovers」:作編曲&Gt&Ba&Cho
・「I Hear a New World」:共編曲&Gt&Ba&Cho
・「Honey」:Gt&Cho
・「Runaway」:作編曲&Gt&Ba&Cho
・「Destiny feat.LUVRAW&BTB」:Gt
・「Moon」:Gt
・「Let It Be Me」:編曲&Gt&Cho
・「Days After Happy Ending」作編曲&Gt&Ba&Cho
『realize!! / ワンリルキス』(2014/4/30)
・「realize!!」:Gt
『硝子のサマーホリデー / 一十三十一』(2014/7/9)
・配信限定シングル(Prod by grooveman spot):Gt
『HEAVEN FORNIA EP / ZEN-LA-ROCK』(2014/7/16)
・『HEAVEN FORNIA feat.JOY McRAW」(Prod by grooveman spot):Cho
『Come on Honey! feat.新井ひとみ(東京女子流) / tofubeats』(2014/8/6)
・アルバムからの先行配信シングル:Gt
『ひまつぶし / チームしゃちほこ」(2014/8/20)
・「SPACEひつまぶし supported by ZEN-LA-ROCK」:Gt
(2014年9月現在)