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なにかあり/とくになし

地の塩

2015年6月2日。
両国国技館が会場で
建物の中央、つまり土俵の部分にステージが作られていた。


円形の舞台で
5人ではじめて円になって
最初は照れくさそうだったけれど
本当に最高の演奏をした。


でも本当の本音をいえば
もっとしくじってほしかった。


だって、
「Emerald Music」と「会社員」をアンコールでやり直したように、
だれかがミスしたら
また何度もやり直して
やり直してやり直してやり直して
いつまでもこの時間を続けていられるだろうから。


なのに
ミスしない。


ハマケンが「生活」でトロンボーンをしくじるのを
何回、いや何十回見てきたかわからないけど
この日の「生活」はくやしいくらい完璧だった。


止めたってもう行くんだなと思ったそのとき
目からじわっと水が出た。


しょっぱなの「進化」でも
まさかの「みんなのユタ」でも
なんとかこらえたのに。


そういえば、
終演後に無人となった舞台を見てあらためて思ったが、
あのステージの場所に本来あるのは、土俵だ。
そして、土俵に撒かれるものは、塩だ。


聖書のなかに「地の塩」という教えがある。


イエス・キリストが弟子たちに語った言葉で
ただしくは「地の塩 世の光」といわれる一節だ。


   あなたたちは“地の塩”である。
   塩には物の腐敗を食い止める効果があるように
   あなたたちも心のなかに塩を持って世のために生きなさい。
   塩味のしない塩になってはいけませんよ。
   心のなかに光を持って
   “世の光”となって照らしなさい。


たしかそんな話(うろ覚えの超訳でごめんなさい)。


この夜、5人も、あの舞台から“地の塩”をたくさん撒いた気がする。
バンドとしての肉体はなくなっても
彼らを愛したひとたちの心のなかにいつでもその塩があるように。
塩味のしない塩になってしまわないように。


ローリング・ストーンズの曲名にも
そのものずばり「地の塩(Salt Of The Earth)」というのがある。
そのの歌い出しはたしか
「働き者に乾杯(Let's drink to the hard working people)」だった。


SAKEROCKがしてきたすべてのことに乾杯したい。
SAKEROCKがこの夜を迎えるために我が身を投じてきたすべての人にも乾杯したい。


これはレビューでもなんでもない。
うっかり死んでしまったときのための、ぼくの覚え書き。