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なにかあり/とくになし

ニュー・ビヴァリー・シネマにて

過日、LAにあるニュー・ビヴァリー・シネマに出向いた。



ニュー・ビヴァリー・シネマのオーナーは、クエンティン・タランティーノ。連日、彼好みの映画が上映される。もちろん可能なかぎりすべて35ミリ・フィルムで。金曜の夜はミッドナイト・ショーもある。この日は2本立てで料金は8ドル。全席自由。入れ替えなんかない。



で、60年代ライヴ映画の傑作「T.A.M.I.ショー」(1964年/米)と、イギリス制作の「ゴー・ゴー・マニア」(1965年)。「T.A.M.I.ショー」は1964年10月28日、29日にカリフォルニアのサンタモニカにあるシヴィック・オーディトリアムで行われたオムニバス・コンサートの記録映画。この時代の音楽のファンなら垂涎のラインナップが並ぶ。




DVDも出ている(出たときすぐ買った)が、地元で、フィルムで、大きなスクリーンで見られる高揚感は半端ないはずと思い、列に並んだ。100名ほどが定員の劇場は、ほどよくいっぱいになった。礼儀としてコークとポップコーンを買った。



場内はこんな感じ。



グラインドハウス」シリーズでも使われる「これから予告編が始まります」のあやしげな映像が流れると、予告編が始まった。その予告は退色しまくった「モンタレー・ポップ」や「ウッドストック」。どうかしてるぜ。


客席は、予告編の時点ですでに拍手喝采やシンガロングが起こっていたが、映画本編からの熱狂はすごいものだった。サンタモニカの大通りをスケボーで駆け抜けるジャン&ディーンに「YES!」 ミラクルズにキャー! レスリー・ゴーアにウォー! マーヴィン・ゲイに「最高だ!」の掛け声。





みんながトイレに立ったのはビリー・J・クレイマーとダコタス。リスペクトがすごかったのがビーチ・ボーイズ。ついに踊り出す客が出るんじゃないかと思うほど盛り上がったのはジェームス・ブラウン。JBの18分は、すべてが完璧だ。



フィルムは保存状態がいいとは言えないし、音質もぜんぜん良くない。でも、その経年感は、同時に見る者に奇妙なかたちでのリアルタイム感を植えつけるものでもある。綺麗にレストアされ、まるで最近の映画のように見えることが必ずしも“生々しさ”には結びつかないという例はいっぱいある。


二度と届かない時代だからこそ、手を伸ばしたくなる感覚。不可能だからこそ、こんなに熱狂が力強い。当時会場に詰めかけ、泣き狂い叫び踊る女の子たちの顔がすべてあんなにうつくしく輝いているのも、手に入れられないものを求めようとする無心が作り出す美なのだ。


ラストは「サティスファクション」直前のストーンズ。あきれるほどに若く、罪作りな匂いに満ちていた。スクリーンの大きさだからこそ気がついたのは、袖で力尽きたJBに、風をあおいで励ましていたダーレン・ラヴ。彼女のいたブロッサムズはマーヴィン・ゲイのコーラスを務めていた。



併映の「ゴー・ゴー・マニア」は、想像していたのと違った。これって、「ポップ・ギア」というイギリス映画のアメリカ公開ヴァージョンでのタイトルだったのだ。ブリティッシュ・インヴェイジョン期にビートルズ人気に便乗して作られたスタジオもの。


最初と最後のビートルズのみライヴで、あとは口パクなのだが、スーザン・モーンやビリー・デイヴィスみたいなイギリスのガール・シンガーや、アルバム・デビュー前のスペンサー・デイヴィス・グループをカラーで見ること自体が珍しいし、それなりに楽しめた。唐突にはさみこまれるゴーゴーガールのダンスも楽しい。ただし、観客は明らかに減り、シンガロングも拍手もそれほど起きなかった。ひとりだけ年配のマット・モンローに対して「がんばれ!」の声は飛んでいたけど(ラストに彼が歌うテーマソング「ポップ・ギア」は最高!)




2本立てを見終えて、外に出るともう真夜中だった。