mrbq

なにかあり/とくになし

2016年のNRBQ

NRBQを見たのは、なにげに4年ぶりだった。前に見たのは2012年の1月。トム・アルドリーノが亡くなって1週間後のニューヨーク。ジェイク・ジェイコブスとサン・ラー・アーケストラのマーシャル・アレンがゲストで出て、ぼくは偶然にもヨ・ラ・テンゴのアイラとジョージアとおなじテーブル。ルー・リードがちらっと見に来ていたとあとで聞いた。


トムへの追悼だとはひとことも言わずに、テリー・アダムスはペイシェンス&プルーデンスの「ア・スマイル&ア・リボン」を歌った。




あれから4年も経つのか。


その後、NRBQにはメンバーの交代が2回あった。ベースが美青年のピート・ドネリーから、仲本工事的な憎めいないルックスのケイシー・マクダフに。そして去年の暮れにはドラマーがコンラッド・シュークルーンから、若いジョン・ペリンに。


ジョンのドラムがいいとはうわさに聞いていたけど、実際に出てきた彼の姿を見ておどろいた。眼鏡の優男ふうのルックスで、どういうわけか、ピエロの衣装を着ていた。帽子こそかぶってないが、これはまるで道頓堀名物くいだおれ人形


仲本工事くいだおれ人形が加わったNRBQは、どうなるか予想もつかない見た目のワクワク感という意味では近年にない期待値を持つ。


確かな演奏力で近年になく多彩なアーカイヴを歴史から拾い上げる新生NRBQの第1期(テリー、スコット・リゴン、ピート、コンラッド)もかっこよくてよかったけれど、ある意味、ライヴから破綻が減ってしまったさびしさを感じてもいたのだ。


アメリカのくいだおれ人形ことジョン・ペリンがスティックを構えて、ずどんと全身の力を入れて振りおろしたとき、本当にひさびさにおなかにずしんと来る感覚があった。これだ、これこれ! 


ジョン・ペリンは、細いからだのすべてを使って、スネアを叩く。体重を乗せてキックを鳴らし、シンバルを目をキラキラさせながら叩く。ドタドタしてるし、ドスンともしてる。コンマ一秒の正確な刻みが幅を利かせる最近の流行からすれば、このドラム、ぜんぜん流行らねえ! でも、これはぼくの大好物。まだ23歳だという彼がどういうふうに音楽を聴いてきたのかわからないけど、たぶん、ジョンはトムのドラムが好きだ。


ステージ中央に立つのは、ずんぐりむっくりで、模型屋の店員みたいな大人のオタク臭がむんむんするケイシー・マクダフ。着実なベース・プレイと、思いがけずよく伸びるハイトーンの持ち主。真ん中にいながら脇を支えるという特殊な立ち位置がおもしろい。


ぼくはアル・アンダーソンがいた時代のNRBQは映像と音源でしか知らない(35周年の全員集合ライヴで、そのマジックの片鱗は感じたけど)。だけど今夜、あの“こわれそうでこわれない、結果的にこわれちゃうかもしれないけど、それでもいいよね!”って感じの奇跡的バランスを、もう一度感じた気がした。今のNRBQ、もしかしてすごくいいんじゃないのか?


この夜は、老舗のマスクマン・インスト・バンド、ロス・ストレイトジャケッツ(対バンとして最高!)とのツーマン・ツアーの一環。最初にやったストレイトジャケッツが一時間足らずだったので、NRBQもそれくらいかと思ってたら、2度のアンコールも含め、たっぷり2時間やり尽くした。遊びに来ていたジェイク・ジェイコブスがこの日もゲストに出てくれた。



 NRBQ + Jake Jacobs singing "After All"



「That's Neat, That's Nice」を聴いた瞬間、忘れかけてたか、トムがいなくなってからあえて忘れようとしてた、あの感じを思い出して、動悸が早くなった。


終演後、テリーにあいさつしたら、とても喜んでくれた。ケイシーは初対面で「ぼく、いくつだと思う?」と聞いてきた、ちょっと変な人。ちなみに48歳で、ぼくのひとつ上。そして、ジョン。知人と話していてわかったが、彼の両親が熱心なNRBQファンで、彼自身もシャッグスの大ファンだという。産湯のように聴いて育ったのなら、そりゃあのドラムの音が欲しくなるよね。


知人がしみじみと言った。


「テリーは、NRBQでもっとやれることがあるとまだ思ってるはず」


それがどういうことかを聞く前に、テリーはハル・ウィルナーや友人たちと連れ立ってバーに行ってしまったけれど、これからもこのNRBQが続いていくことが答えを出してくれるだろ。


1996年の初来日から20年。そのときのメンバーで残っているのは、今やテリーだけだ。この世を去ってしまったひとたちもいるし、闘病しているひとたちもいる。白髪になったり、はげたり、太ったり、多少ゆるくなったりしながらも、みんな一緒に歳をとって演奏する姿を見たかったという気持ちは、もちろんある。


でも、60代後半を迎えても前のめりに音楽に我が身を捧げ、自分を鼓舞してくれるメンバーとともに音楽家として前に進みたいっていう気持ちを持ち続けているテリーを見るのはやっぱり刺激的だし、大好きだ。彼がうれしそうにしてる姿が舞台の上にないのなら、NRBQである意味がない。


NRBQは、まだまだ自分たちのリズム&ブルースを更新している。


願わくば、またすぐにでも見たい。



  現編成での初リリースはロス・ストレイトジャケッツとのスプリット7"。