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なにかあり/とくになし

ユーミン40ドルから転がった話

アメリカにおけるユーミン評価の一例。




ブルックリンで開催されたWFMUレコード・フェアにて見かけたレコード。先日ツイートしたこの写真に対し、思いがけずたくさんのご反応をいただいた。


似たような例というか、2年半前の話には、こういうことも。


【2013年11月18日のツイート】より。→【旅の思い出】ハリウッドのアメーバ・ミュージックで店内BGM担当の女性DJが突然この曲をかけて



さらにこれにつないで




お客さんが何人もゆらゆらと踊るように揺れるのを見た不思議な至福(ここまでが、そのときのツイート)。


あと、ユーミン40ドルを見かけたレコードショーでもうひとつびっくりしたのは、アメリカ人青年客がディーラーに「AORある?」と聞いてたこと。“AOR”って今や完全に和製英語アメリカではもはやあんまり通じない実感があったから「“ヨットロック”みたいな音のこと?」と思わず彼に聞いた。


すると彼は「うーん、音的にはそうだけど、“あの言葉(ヨットロック)”って、セルアウトな感じだし、バカにしてるだろ?」との返事。つまりニュアンス的にいうと「ヨットロックよりもマイナーでレアでやばめの白人ソウル」にリスペクトをこめて、彼は“AOR”と表現していた。


AOR”って言葉が逆輸入的に欧米で復活・定着するかどうかはわからないけど、英語として意味が成り立ちにくい造語“シティ・ポップ”よりは可能性がある気がする。


数日後、別の店で買付中。店内で流れてたネッド・ドヒニーハード・キャンディ」、値段を聞いたら「だれが買うんや!」と声が出るくらい強気だったけど、最後までかかりきらないうちに若い子がさくっと買ってった!




レコード・ショー話でもうひとつ。「タイガー・リリーのボビー・ボイド(超ウルトラレアなソウル)ある…わけないか?」とディーラーに話しかけた客がいて、答えはもちろん「NO」なんだけど、そのあとがおもしろかった。「タイガー・リリーのレコードは、おれらにとってのパナマ文書なんだよ」


“レコード界のパナマ文書”とは最高のたとえだけど、実態はちょっと違う。英語では“tax scam record(税金ごまかし盤)”と呼ばれる。“売れなかった”からレアなレコードになっているのではなく、“そもそも売られなかった”レコードがそれ。つまり税金対策で赤字を作るための盤。


“tax scam”で有名なレーベルといえば、思い浮かぶのはタイガー・リリー、ギネス、一時期のB.T.パピー。こうしたレーベルのレコードは、ちゃんとレコーディングされ、かなりの量プレスしたにもかかわらず、“売れなくて赤字”という事実を作るために市場にはほとんど出回らなかった。


B.T.パピーは東海岸オールディーズ・ポップの名門グループ、トーケンズのメンバーが設立したレーベルだけど、この悪名高き商法に目をつけた最初期の会社のひとつ。60年代末〜70年代頭にリリースされたアルバムの数々は、ごくわずかしか現存していないと言われる。残りはすべて廃棄されたとか。




タイガー・リリーも、ルーレット・レコードの社主でNYのマフィアで音楽業界の大ボスでもあったモーリス・レヴィが傘下に設立させた税金回避レーベル。ジャクソン・シスターズ、ボビー・ボイド、アラン・ゴードンの「エクストラゴドナリー・バンド」などが、その仕打ちに遭ったレコードとして有名。




これでそういうレコードが粗製乱造の駄盤ばかりならまだしも、“ちゃんと金かけて作りました”って事実だけ残すためにクオリティの高い作品が少なくないから困る。今でこそリイシューとかで触れやすくなったものもあるけど、まだ手つかずのものも多い。写真でしか見たことないレコードだらけ。


なお、こうした不法な税金回避の抜け道に対しては国税局の対策が行われ、1978年ごろを境に“tax scam”なレコードはリリースされなくなったという。78年で終わりってあたりが、音楽的にもデジタル以前のおいしさがかなりある時期で(特にソウルとか)、よけいにうらめしい感ある。


タイガー・リリーの“tax scam”な幻盤のひとつ。アラン・ゴードンの「エクストラゴドナリー・バンド」(写真ぼけぼけですが)。数年前のレコードショーで。価格は1200ドルだったかな(買えません)。



参考までに今年アップされていた“tax scam releases”についての記事(英文)。