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『A MEZZANINE(あ・めっざにね)』全曲を語る その2/髙倉一修&厚海義朗インタビュー

さて、『A MEZZANINE(あ・めっざにね)』の1曲目「三世紀」話は、まだまだ続く。

 

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三世紀

三世紀

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──後半に乗る髙倉さんの歌詞が、ああいうものになるというのも考えてました?

 

髙倉 何か言葉が乗ってないとただコードがわーって流れてるだけだと曲が活きない。でも、歌が乗るかっていうとそうじゃないなと思ってたから、なんとなくたくさんの言葉がある「ラップ未満」のイメージがあるということは田代さんに伝えた。「そういうたくさんの言葉を別に作ってもらうことはできますか?」って。それで一旦は彼女に投げたんだけど、最終的に来た歌詞は原詞をちょっと変化させた感じで、それほどたくさん言葉がなくって。ぼくは原詞で自分がイメージした展開からは離れたいというのがあったから。

 

──でも、明日が歌入れだっていうギリギリのタイミングでとはいえ、この言葉がよく出てきたなと思います。「即興的にできたものだからやるたびに変わります」というものでもないわけだし。

 

髙倉 ぼくもそんなに言葉達者な感じじゃないし、浮かんだもので使えるものがあればめっけものくらいだったから、とりあえず「ワーっと書いたら書けた!」みたいな感じ。これで行くしかないなと。

 

──最初の三行(「空と陸のあいだ」から「浮かんでいる(滞在中)」)までは、アルバム・タイトルにも絡む重要なモチーフでもあります。これは、常に『A MEZZANINE(あ・めっざにね)』というコンセプトを意識していたから出てきた言葉?

 

髙倉 そうそう。だから、そこから「室内」というか「建物」的な感覚のワードも出てきたし、ここのコード進行のイメージに、全体的に建築パースを思わせるメタフィジカルなものがあった。そう思って書き始めてみた、という感じかな。まあ、苦し紛れのものではあるんだけど。

 

──でも、なんならここからの後半を暗記して口ずさんでいる人も出てきそうな。

髙倉 いやー、いないよ(笑)

 

──あと、あだちくんが英語のナレーションで最後にちょっと参加してますけど、この曲はサウンド面ではまったく髙倉さんひとり制作なんですよね。

 

髙倉 「(滞在中)」のところも、あだちくんに一緒に歌ってもらってますね。そこは歌入れしてる最中に浮かんだことをノリでお願いした、みたいな感じだったけど。そもそも本当は最終的にバンドでの演奏に差し替える計画だったのがギリギリまでぼくの曲作りに時間がかかってしまったので、打ち込みのデモトラックをイキにすることになった、という経緯でもあるんです。

 

──ひとりだけでやったスタジオ版と、ライヴで聴く「三世紀」がまた別の盛り上がりを見せる曲になっているというのもおもしろいです。森道市場のときも「そうなるんだ!」って驚きがありました。ライヴでやるとしたら、最初に亀田(暁彦)くんと髙倉さんがふたりで出てきて、ミニマルな感じで、イントロダクション的にやるとか想像してたから(笑)

 

厚海 確かに(笑)

 

髙倉 そうだね(笑)。まあ、バンドでやるんであれば後半は化けるかもしれないなという思いがあった。あと、その思いのなかには、みっちゃん(光永渉)は「こうやってください」というのをそのままやる人ではなく、もっと展開させてくれる、というのもあった。だから、バンドでやるのならスタジオ版の世界観は手放す、という方向のほうがおもしろいだろうなと思ってました。

 

──それってGUIROの楽曲に対する髙倉一修の思想としても言えることだと思うんですけど、一部の隙もなくがっちり構築的に捉えているというより、じつは結構軟体的に考えている部分もあるのかな。

 

髙倉 たぶん、(2016年にGUIROを)再開してからはわりと後者の感じになってる気がする。これ(スタジオ版)を再生するだけのことをライヴでやるんであれば、先があんまり見えないと思ってたから。そうじゃないことができる人たちがバンドにいるのに、録音のそのままをライヴでやっておもしろいのか? (西尾)賢さんにしろ、あだちくんにしろ、「こうやってください」とお願いするより、ほっといたほうがおもしろい人たちだから。ただ、よっさまはスタジオ版のベースラインを最初は完コピしようとしてくれてた。

 

厚海 そうそう。結構頑張ったんです。でも、無理だった(笑)。七連符とかあるし(笑)

 

髙倉 作るときはベースラインは相当自由にやったから。個人的にいちばん「変なの出てきちゃったな」と思ったのは、「一階と二階のあいだ」のちょい前に「ドレレン、ドレレン」って出てくるフレーズ。そこが気に入ってます(笑)

 

厚海 ライヴではポエトリーに入る頭の四小節のところは、デモのラインをループして弾いてますね。

 

髙倉 相当そのままやってるよね。ぼくは「変えてちょうだい」って言ってたんだけど。

 

厚海 7割くらいは追えてるんじゃないかな。ベースラインというよりは、ベースもシンセの配置のひとつとして捉えているんだろうなというのは、ひしひしと感じました。コードのスケールには収まってるんだけど、コードの根っこにベースがいないんです。ソロの延長みたいな感じかな。それを高倉さんなりに、あえてベースでやってみてる。そこが特徴的です。テンションノートの使い方とか、本当に独特なんですよ。一度五度の積み重ねというのがあるんですけど、コードのインターバルの、敢えて高い音のほうをベースラインに持ってきてたりするんです。それが不思議な感じにはなってますね。本来、ギタリストやサックスがやるべきラインがベースに来てる。そういうところが最近わかってきました。この曲に限らずですけど、「銀河」とかでもありますね。

 

髙倉 言われてみたらそうなのか、とは思う。自分では「こうだと気持ちいい」という感じで作ってるだけだから。その感じが自分のカラーになっていて、わかる人が聴くと「変わってるね」みたいな感じになるんだろうな。

 

──でも、その法則みたいな部分がわかってくると、やりやすくなってくる。

 

厚海 そうですね。でも、ぼくも聴いただけじゃわからないですよ。譜面に起こさないと無理。

 

──それにしても、「三世紀」は一般的な尺度で見れば問題作な曲だけど、いちばん新しい曲が問題作だっていう状態は表現者にとってはいいことだと思ってます。

 

髙倉 自分としては、ひさびさに「昔取った杵柄」な感じがした。

 

厚海 原点回帰ってことですか。

 

髙倉 20代はとにかく打ち込みで曲を作ってたけど、今の録音テクノロジーにおいての打ち込みはちゃんとやったことがなかったから。打ち込みをやるってことは隅々まで自分の音色が再現されることになるし、リズムの跳ね具合とかも自分で設定する。バンドでありきで考えると「その隅々までのこだわりにどれほど意味があるの?」ってことになっちゃうけど、高倉、厚海、牧野の3人でGUIROを名乗ると去年決めたときに、ちょっとバンドらしさから解放されたところもあったんですね。録音物というのは別途に考えていいし、こういう「三世紀」みたいな曲があってもいい。むしろこれが雛形としてポンと入ったりすることで、全体の見え方がだいぶ変わるなという思いはあったから、存分にやってみようという気持ちは途中から出てきた。ただ、最終的に「三世紀」が録音物として聴くべきものになりうるのかが、ずっとわからなかった。あだちくんはずっと録音の作業に付き合ってくれてたけど、ぜんぜん反応なかったからね。

 

──そうなんですか(笑)

 

髙倉 うん。「デモでしかないよね」という印象なんだろうなとぼくは感じてた。よっさまとマッキーはいい反応示で、「これもアリなんじゃないか」とは言ってくれてたから、半分は現実的に考えられたかな。

 

厚海 最初はリズムがチキチキ音だけだったんで、ぼくが勝手にデモにキックとスネアを足して送り返したことがあります。「試しにこんな感じはどうですか?」って。

 

髙倉 「ツタタ、ツタタ」みたいなやつね。この曲って四拍子と三拍子が入り組んでるから、そこにキックとスネアを入れちゃうと、わりとそれぞれの拍子がはっきりしちゃう。そこをあんまりはっきりしない感じに仕上げてみたかったんで、それを足すのはちょっと待ってもらって。バンドでやるんだったらその感じかなっていうのは想像がつくから、最終的にはそうなってもいいと思ってる。だけど、この打ち込み版は四と三がわからない感じで進んで、後半になだれ込む、みたいな感じ。それがどう決着するのかわからないけど「好きにやってみたいからしばらくはこのままで行かせてちょうだい」って返事しました。最終的に5月くらいになってドラムを打ち込みはじめて、そのときに「あ、これ、キックとスネアの位置をちょっとズラせる」って気がついて、だいぶ楽しくなっていった(笑)

 

厚海 (その時間で)消化しきれたんですよね。

 

──本当に不思議な曲ですよ。トラックだけ考えて「変な曲できちゃいました」じゃなくて、着想は最初にあった歌詞から誘発されたわけですよね。そして歌詞も変わり、トラックも変わっていった。

 

髙倉 そういうでき方というのも初めてだから、見えない分ハラハラはしたけどおもしろかった。結局、分数としても3分に満たなくて終わったんだけど、それも気持ちのどこかでは途中まで「1番あって、2番あって」みたいなサイズ感も必要と思ってたところでもあって。だけど打ち込みだけでそのサイズを作るのはちょっと大変だった。でも、よっさまとマッキーは「この曲をリード・トラックに」くらいのことを言ってくれてたから、その体裁に適うサイズ感をなんとかしなくちゃいけないんだろうなと思ってたけど、最終的に締切ギリギリになってきて、サイズだけ足りてもおもしろいものになるかわかんないし、後半の歌詞も書けてなかったから、諦めたんです。でも、これは中途半端なかたちかもしれないけど「ノヴァ・エチカ」へのインパクトのある導入にはなるな、と。この短さで曲をやめるっていうのは結構怖いことだったけど(通例で考えるところの)半分サイズであることが、逆に変なかたちでの導入としてもいいんじゃないか。その辺はちょっとソランジュの新作(『When I Get Home』)とかに後押ししてもらった気はする。

 

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ソランジュ「When I Get Home」

 

──なるほどね。その感じ、わかります。

 

髙倉 (単体では)どういうピースになるかわかんない曲があっても、逆にいまはおもしろいかなと。自分的に「こういうものもあり」だと思いたかったときに、ソランジュのアルバムをちょうど聴けたからというのもあるかもしれないけど。

 

──いろんなぐうぜんの作用はあるかもしれないけど、あれが一曲目で聴いた人の衝撃は大きいと思いますよ。プラグインそのまんまっぽいシンセ音からして、そう。

 

髙倉 一応、プラグインそのままではなくて、ちょっとエディットはしました。だいたいGarageBandの音源はすべてリヴァーブがかかってるから、それは取ったし。

 

──ミックス面ではどういう意識をしてました?

 

髙倉 土壇場になって、この曲だけ葛西(敏彦)さんにお願いをしたんです。

 

──たしか、超特急仕事。

 

髙倉 そう(笑)。でも、すごく楽しんでやってくれたし、自分でもお願いしてよかった。葛西さんは『ABBAU』のときにもお願いしてるし、ぼくがリヴァーブ嫌いなのもわかってる。だけど、向こうにも「どこかでリヴァーブ入れてやろう」みたいな気持ちがあるのもわかってるから、そこはこっちも「よっしゃ来い!」と仕上がりを待って。で「あ、そこに入れたんだな」と思うという。

 

厚海 ぼくは完全に(リヴァーブの入れどころは)葛西さん寄りでしたね。最初のミックスでは「もっと大げさにやってほしい」ってお願いしたくらいで。

 

髙倉 「編まれた」の「た」のところとかね。でも、全体の音像がかなりおもしろい感じにできたから、そういうリヴァーブ感も活きるなとぼくも納得できた。何か意見が戦うようなことはぜんぜんないし、ドライな音像は葛西さんはお手の物だし。「もっと近い音像にしてみたい」とリクエストしたら「じゃ、これはどう?」みたいな。この曲に関しては一貫して楽しく作業できましたね。

 

厚海 (ミックスを経ての印象は)ぜんぜん変わりましたね。とは言え、シンセの音色とかは変わってないんですけど。

 

髙倉 録音物になるから、低域のことがきちんと意識されたミックスになりましたよね。

 

厚海 そこはもうGarageBandとは違うものになって。

 

髙倉 でも、葛西さんは「GarageBand最高だよね!」とも言ってましたけどね(笑)

 

──さて、「三世紀」だけでもうこの分量になっちゃいました(笑)。まだアルバムの1曲目なのに(笑)。でも、まだまだ続きます。

 

(つづく)

 

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仙台公演、無事終了。次は12月に東京で。

 

2019.12.11

GUIRO Live A/W " Neue Welle "

 

日時|2019年12月11日(水)
場所|晴れたら空に豆まいて (代官山)
出演|GUIRO
開場|19:00
開演|20:00
料金|前売3,500円/当日 4,000円 (ドリンク代別途要)

 

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