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『A MEZZANINE(あ・めっざにね)』全曲を語る その3/髙倉一修&厚海義朗インタビュー

『A MEZZANINE(あ・めっざにね)』の全曲を髙倉一修&厚海義朗が語るインタビュー。約1万字に及んだ「三世紀」を経て、話は2曲目の「ノヴァ・エチカ」へ。

 

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──じゃあ「ノヴァ・エチカ」に進みますか。まずとっかかりとして旧ヴァージョンの「エチカ」の話をすこししておきたいんですが、あの曲はどういうきっかけでできたんですか?

 

髙倉 2000年くらいにできた曲かな。もうGUIROは活動していた。笑わないでほしいんだけど、その当初は「年相応の曲が作りたいな」と思ってた気がする(笑)。

 

厚海 髙倉さんが30歳を超えてから作った曲ということですよね。

 

髙倉 なんでそんなことを思ったのか、いまとなってはその心理がわからないけどね。歌詞はその当時に思っていたことが出ちゃったんだと思う。わりとポジティヴな内容じゃないからね。できちゃったからしょうがないんだけど、ポジティヴじゃないところが自分ではずっと引っかかってたかな。でも、その当時は「出てきちゃったものを肯定しよう」という意識が強かったから、これも何か意味があるのではないかと思って取り組んでいた。

 

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8センチCDヴァージョンのジャケット

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7インチ・シングル・ヴァージョンのジャケット

 

 

──厚海くんは、2002年ごろにGUIROに加入するオーディションの課題曲として「エチカ」と「銀河」を弾いたんでしたよね。最初にあの曲を聴いてどう思いました。

 

厚海 ぼくの前にいたベースの方が弾いていたデモを聴いたんですけど、だいたいあの雰囲気はできていました。最初は譜面にコードが書いてあって、元のベースのフレーズまでは追いきれなかったかな。でも、ぼくが愚直に弾いたのを高倉さんは気に入ってくれたんでしょう。

 

──そして、この新ヴァージョンは、厚海くんが元曲と違うリズム・パターンを思いついたところから始まってるんですよね。

 

厚海 そうなんですけど、それもどうやって思いついたのかはあんまり定かではないんですよ。もともと、ぼくが元曲のときに髙倉さんから指定されたベースラインというのがあるんですよ。Fシャープ・マイナー→Gシャープ・マイナーって平行移動。Fシャープの音を「ドゥッドゥディルディルディ」弾いてからのGシャープの音を弾いた後もFシャープのときの音形を追うというものだったんですね。

 

髙倉 あー。

 

厚海 それをなんとなく覚えていたのをちょっと応用してみたんです。最初の2コードのひとつ目のルートを弾いた後の動きをふたつ目でもやるという。そのアイデアをまたやってみたいなと思って試してたんです。髙倉さんとあだちくんがそれに食いついてくれたし。

 

髙倉 上物だけが上がってく感じか。

 

厚海 そう。ベースだけ残る。

 

──そうなんですね。この新ヴァージョンではリズムパターン全体が変わった印象が強かったから、厚海くんの思いつきはドラムとの関係性を変えたいという話だったのかなと思ってたんですけど、むしろ最初の思いつきはベースだけの話だったんですね。

 

厚海 事の発端はいま話したようなことだったんですよ。あとは「溜め感」ですね。端的に言っちゃうとceroの「街の報せ」でもやってることなんですけど、シャッフルを5拍でとったうちの3と2に分けてとるとか。さっき言ったベースラインを、そういうビートと組み合わせていろいろ遊んでたんです。

 

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2019年7月にRojiで行われたトーク(ゲストにyojikさん)

 

──「エチカ」でそういうアプローチをはじめたころのライヴを覚えてるんですけど、いま厚海くんが言ってくれてた感じにはなってなかったですよね。

 

髙倉 結局、最終的にはそこにそんなにこだわらない方向になったんだけど、当初は5拍に割ったところの「“ここ”と“ここ”が肝なんだ」みたいなところから取り掛かっていったよね。そこを肉体化する作業があんまりうまくいかない状態がしばらくあった。なんせそういうことを考えてない人たちばっかりだったから。

 

厚海 時間はめちゃくちゃかかりましたね。一回あきらめましたよね。「ぜんぜん別のアプローチでやろう」みたいな。でも、とはいえこっちも、という感じになってまた最初のアイデアに戻って。グッゲンハイム(旧グッゲンハイム邸)の〈in da house〉(2018年4月)のときに初めてライヴでやったと思うんですけど、あれは強行突破でした。とにかくやってみたという感じ。

 

髙倉 結構時間がかかってしまったので、そのうち「この跳ね感も旬が過ぎたのじゃないか?」みたいにもなってきたよね。「今さらこれやるの?」みたいな話も出てきてた(笑)。でも、そこでみっちゃん(光永渉)が新しいサポート・ドラマーで入って前に進んだ。ceroでもそういうパターンはやってたからみっちゃんはポイントがわかってたけど、当然の反応として「これをそのままやるのはちょっとダサいかも」みたいなのもあった。それで、みっちゃんが「義朗くんはそのままでいい、ぼく(光永)はちょっとスクエア気味にやる」って提案してくれて、それを聴いて「あ、なるほどね」と思えた。去年の9月に「ノヴァ・エチカ」の最初のベーシック録る段階で、そのスクエア気味でやったのがかっこいいという手応えが出てたので、これだったらいい着地ができるんじゃないかな、と。それがソーシャル(〈SOCIAL TOWER MARKET〉、2018年10月14日)の前かな。

 

厚海 そうだった。

 

髙倉 マッキーもこの曲には結構手こずったからね。彼は最初はどう弾いていいかわかんなかったから、サビ前くらいまでのリフはぼくの「こう弾いて」というラインをやってもらった感じ。だけど、その感じもなかなかうまく消化できなくて。ギターの録音も1回録ってやり直したかな。

 

厚海 最終的に、あだちくんの家で録りなおしたよね。

 

髙倉 でも、それでだいぶいい感じになった。ぼくはぼくで「歌い方がわからない」という状態もあった。このリズムを細かく追っていくという歌い方も違うだろうと思ったし、「ちょっと大きく歌えないとダメだろうな、でもその歌唱力が自分にないな」みたいな思いもあって、いっときはぜんぜんわからなくなってた。それが、歌録りをあだちくんとやったときに、「今日は喉の調子がちょっとダメだから仮歌でいいかな」と言って入れたやつが……。

 

──もしかして?

 

髙倉 本チャンのテイクになった(笑)。ほとんど偶然なんだけどね。

 

──ちょっと力が抜けてたのがよかったとか?

 

髙倉 そうかも。でも発声も、そのときに初めて出てきたやつだから。なぜかわかんないけど、そのとき急に見えた。

 

厚海 あと、このトラックはコーラスが結構肝になっていて。かなりジャム的に重ねて作ってるんですよね。

 

髙倉 そうそう。カチッとしたコーラスだとおもろないと思ってたので。思いつき感でどこまで行けるかなと。そういうふうに行けたらちょっと面白いかもしれないと思ったからね。どっちにしろ、キーを上げた分、サビあたりの主旋律の音程が高すぎるからちょっと太さが欲しいけど、だとしたら録音であれば自分の声だけでやってみようと思ってて。それをいかに思いつき感のかたちでやれるか、みたいなところ。そこのオーヴァーダブの工程はあだちくんが付き合ってくれて。

 

──思いつき感への対応は、あだちくんは得意ですよね。

 

髙倉 そう。だから、ぼくもいきなりあの感じで、その場で急に「これで(歌)入れてみる」みたいな。彼は彼で「これはハモれてない」とか「ピッチがおかしい」とかそういうことをしっかりとチェックしてくれた。それをよっさまに聴いてもらったらわりと好感触だったから、この方向で行こう、と。

 

──ライヴでの試行錯誤を重ねてきたヴァージョンだから、その積み重ねでこうなりましたというストーリーを作りがちだけど、むしろ解決を生んだのはスタジオでの思いつきだったんですね。

 

厚海 そうですね。そういう要素のほうが大きいかもしれない。

 

髙倉 レコーディングでいろいろ見えたもんだから、ライヴでやるのが楽になったという感じかな。途中で賢さんからも「このテイクに関してはなるべく隙間感があって時々切り込みをガッと入れるみたいな感じで行ってみたい」という意見を出してくれたりして。だから、(スタジオ・ヴァージョンの)間奏は何もないような感じでもある。でも、詰め込まないという点では、みんながちょこちょこ意見を出してくれたのがうまく反映できてる気がする。コーラスは部分的には詰め込まれてるけど、逆に間奏では何もしない、みたいな按配でできたかな。レコーディングって、おもしろいですね。

 

──それって、さかのぼると元曲のレコーディングにも言えたことなんですか?

 

髙倉 いやー、あのときは本当に見えてないことが多すぎた。

 

厚海 ぼくもまったくおなじです。元の「エチカ」のベースに関しては、たとえば間奏で髙倉さんから「ここは無調っぽい雰囲気を作り出したい」って言われて弾いたんですけど、すごく短絡的にとらえて適当に弾いてしまったなと本当に後悔してるんです。そのときの反省もあって、いまは回を重ねるごとに刷新してるつもりではあるんですけどね。

 

髙倉 ぼくもさ、言葉ではそうやって「無調」とか言ったけどさ、具体的にこうして欲しいとは言えてないんだもんね。

 

厚海 ただ、8センチCDを出した後のライヴくらいからはわりと解釈を変え始めて。なるべくルートを追わないとか。そのなかで調性をとっていくやり方をしてました。それがいまのベーシックになってるかな。

 

──そういう意味では、今回の「ノヴァ・エチカ」のベースラインは元のアイデアも自分なわけだし、納得がいくものになっていますか。

 

厚海 そうですね。わりと自信があります。とは言え、もっとこうしたかったなというところもあって、それはライヴでいま反映させてます。

 

髙倉 ああ、本当?

 

厚海 いまライヴでやってるラインがいちばんいい。

 

髙倉 ぼくもいまのみんなだから、あんまりコントロールすることは考えなくなって、それぞれに委ねてる。「ここはこうして」というところは押さえて、なるべく委ねたい。この「ノヴァ・エチカ」の録音ヴァージョンに関しては、それがちょうどいい按配で構成できたんじゃないかな。こないだ、ひさしぶりに前の「エチカ」を聴いてたら、ぜんぜんいまのヴァージョンとは切り離されてるなと思った。変な引きずり感を自分で感じないものになったなと。

 

──ちなみに、タイトルをあえて「ノヴァ・エチカ」に変えたのは?

 

髙倉 そこはそんなに深く考えてなかったかな。GUIROのデザインをずっとやってくれていて、エグゼクティヴ・プロデューサーとしてもクレジットされている則武さんとミーティングをすることがあるんですけど、彼が別れ際によく「『エチカ2』を作って」って言ってたんですよ(笑)。作る本人と、そばにいる人の意識がおなじとは限らないでしょ。彼としてはキャッチーな曲を作ってほしいという気持ちがあって。

 

──続編というより、「次のエチカ」となるべき曲を作ってほしいということですね。なるほど。

 

髙倉 そういうことを冗談交じりに言われて、「無理無理!」って返すやりとりがよくあったんだけど。今回「エチカ」を新しくするにあたって、心のなかではぼくは「新エチカ」って言ってた(笑)。だけど、実際にリリースするにあたってタイトルはどうしようかと思ったとき、「エチカ」は「倫理」って意味だから、「新エチカ」だと「新倫理」になって、高校の教科書みたいになっちゃう(笑)。だから、このままラテン語訳で「ノヴァ」にした。大仰に聞こえちゃうかもしれないけど、自分としてはそんなつもりはなくて「新」くらいの意味。なので、最終的にギリギリになってよっさま、マッキーとも相談して「ノヴァ・エチカ」になりました。

 

(つづく)

 

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東京公演、近づいてきました。

 

2019.12.11

GUIRO Live A/W " Neue Welle "

 

日時|2019年12月11日(水)
場所|晴れたら空に豆まいて (代官山)
出演|GUIRO
開場|19:00
開演|20:00
料金|前売3,500円/当日 4,000円 (ドリンク代別途要)

 

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