8時半過ぎに来た男
8時半過ぎにハイファイにあらわれた太った男は
よっこらしょといつものように
腰をおろした。
「いやあ、まさかあんな展開になるとは
思いませんでした。アポロンが」
文意がつかめず
訊きかえすと、
「まだ読んでないんですか？
小玉ユキ「坂道のアポロン」の3巻ですよ」
と、あきれたような返答。
ごめんごめん。
唐突だったもんで。
もちろん、もう読んでます。
すごく面白くなってきたよね。
最近おもしろかった漫画は？
お決まりの質問を投げてみた。
「ウォッチメン」
ああ、あの映画になったアメコミの。
「グラフィック・ノベルって言うんですよ、
あ、松永さん、SF漫画は嫌いでしたっけ？
今、もっぱら少女漫画ですもんね」
嫌いじゃないんだけど
ここ数年はそっちにあんまり気持ちが行ってなくて。
「ヴィンランド・サガ」は「プラネテス」よりおもしろいか、とか
「月光橋はつこい銀座」は読んだ方がいいよ、とか、
閉店時間を過ぎても
そんな話をしばらく続けていた。
相原コージの描いてる動物最強決定戦の漫画
「真・異種格闘大戦」はどうなんだろう？
「相原コージは天才ですよ。
80年代にすごく影響受けました」
彼のその断言ぶりが感動的だったので
相原コージとジョー・ストラマーがちょっとダブるんだよねという
ぼくの思いつきは言わずにおいた。
相原コージにはいい加減さがない。
漫画という表現に忠実すぎるというか、
時代が見えすぎるからハズす方をあえて選ぶというか……。
いましろたかしが若い世代に高い評価を受けているのに
相原コージがそうならないのはどうにも解せないなと
彼はフンガイしていた。
相原コージがジョー・ストラマーなら
いましろたかしはオシャレな要素をゼロにした
ポール・ウェラーかもしれないぞと思ったりもした。
実はまったく空気の読めていない頑固さがそっくりかも。
だとしたら江口寿史は
ジョン・ライドンとマルコム・マクラーレンを合体させた感じ？
業田良家はどこに置いたらいいだろう？
文学的な感じはストラングラーズのジャン・ジャック・バーネル？
うのせけんいちはやっぱりシド・ヴィシャスだったんだろうか？
帰りがけに
「月光橋はつこい銀座」を買ってみますという彼につきあって
書店に立ち寄ると
川島よしお「おちけん」（アクション・コミックス）が出ていた。
待望の一冊！
