mrbq

なにかあり/とくになし

コトボールの思い出

21世紀になったばかりの頃は
ちょっとだけ憂鬱だった。


定職がなく
今話題の廃業する人材派遣会社に籍を置き
武蔵境の工場に通っていた。


その工場にレギュラーで派遣されていたメンバーは
約10人ほどいた。


結構仲が良くて
年齢も背負っている事情も違う人間たちが
足場のない青春模様をそれなりに楽しんでいた。


昼休みにはセパタクローの変形みたいな
足バレーボールが流行ったときがあり、
工場名にちなんで“コトボール”とぼくが名を付けた。


ボールは業務で使う
スポンジをガムテープでまるめたものを使っていたので
ふわふわしていて危険じゃない。


あるとき
屋根の上にボールが打ちあがってしまい
それを取りに行った男の子が
トタンを踏み抜いてしまい、
怪我はなかったけれど問題になり
以来コトボールは禁止になってしまった。


誰に薦めるわけじゃないけれど、
あのコトボール、意外と流行る気がしたんだがな。


あの派遣会社がなくなることは
大いに結構と思うけれど(きらいだったし)
日雇い派遣を法律でなくすとかいう動きは
どうなんだろうか。


むしろ指導すべきは
登録する側の困窮と無知につけこんだ
派遣会社と企業による高いピンハネ率じゃないのか。


明日をもしれない身なのに
年齢も背負っている事情も違う人間たちが
足場のない青春模様をそれなりに楽しんでいたあの時間を思い出すのは
ちょっと憂鬱なだけで
そんなにイヤじゃない。