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なにかあり/とくになし

注意、音楽が出ますよ

「注意、音楽が出ますよ」とは
偶然訪れたウェブサイトで見かける類の警告文。


そんな警告を受けた気分の
漫画アンソロジーを買った。


小学館の老舗漫画誌
ビッグコミック」の創刊40周年を記念した
ビッグコミックセレクション 名作短篇集」のことだ。


1969年9月10日号に掲載された
水木しげる「さびしい人」から
2003年11月10日号掲載の
高橋留美子「可愛い花」まで、
ビッグコミック」に掲載された
有名作家たちの貴重な短篇が全19作。


そのうち「手紙」(71年2月1日増刊)という作品は
石ノ森(当時は石森)章太郎、藤子不二雄、さいとうたかお手塚治虫
4名のオムニバスなので、
漫画家の数で言うと22名。


一部の作品は
それぞれの作家のアンソロジーに収録されていたりするが
初復刻のものも含むという。


「ガロ」や「COM」の作品集とはまた違った
メジャー誌の中での
メジャー作家たちの
寄り道というか
連載作品にはない本音の一端が
うかがえるのではないかと淡い期待で手に取った。


それがどうしたことか。
ページをめくるうちに
漫画から伝わってくる音楽に
どうしようもなくとらわれてしまった。


水木しげるの「さびしい人」は
まるで幻のフォークブルース・シンガーのような作品だったし、
楳図かずお「さいはての訪問者」(72年4月25日号)の
凍てつく北の果てでの抜き差しならない状況は
フェアポート・コンヴェンションでサンディ・デニーが歌う
マーダー・バラッドにも思えたし、
西岸良平のデビュー作「夢野平四郎の青春」(72年9月15日増刊)を読んでいたら
ハリケーン・スミスの「ドント・レット・イット・ダイ」が
どうしようもなく頭の中で聴こえてしかたがなかった。


ちなみに
掲載作品は発表当時の誌面からの複製をもとにしていて
欄外の予告キャッチや
ミニコラムの類がそのまま活かされている。


「さびしい人」の欄外コラムは
当時人気のラジオ音楽番組を紹介するもので
「パック・イン・ミュージック」や「オールナイト・ニッポン」だけでなく
「百万人の音楽」や「ポート・ジョッキー」なんかも紹介されている。


日曜昼間にTBSで放送されていたという「ジャズ・レポート」や
番組名が素晴らしい「ビート・イン・ブチィーク」など
名前だけでよだれが出そうなこういう番組が
アーカイヴされていないのは日本の不幸のひとつだ。


あだち充が描いた「天使のハンマー」(98年3月25日号)
高橋留美子が描いた「可愛い花」が
両方とも年輩の方にはなつかしい曲名になっているのは
偶然だろうか。


とどめに
巻末の真っ黒なページの下に
「雨に濡れても」のJASRAC許諾番号が小さく記載されているのには
虚を突かれた。


いったいどこで誰がこの曲をと思ったら
諸星大二郎の「女は世界を滅ぼす」という短篇だった。


本書のカバーには作家名は記されているが、
作品名は何も記載されていない。
書店ではヴィニールパックされている場合が多いこともあり、
バイヤーズ・ガイドのつもりで作品名を記す。


水木しげる「さびしい人」
滝田ゆう「はこまくら」
石森章太郎石ノ森章太郎)、藤子不二雄(A)、さいとう・たかお、手塚治虫「手紙」
楳図かずお「さいはての訪問者」
西岸良平「夢野平四郎の青春」
上村一夫「大和の春」
山上たつひこ「家紋」
諸星大二郎「女は世界を滅ぼす」
弘兼憲史「朝の陽光の中で」
はるき悦巳力道山がやって来た」
長谷川法世「ぼくの西鉄ライオンズ
浦沢直樹「踊る警官」
一ノ関圭「ほっぺたの時間」
近藤ようこ「御用の尼」
吉田聡グリフォンの翔んだ日」
谷口ジロー「松華樓」
あだち充「天使のハンマー」
村上もとかあなたを忘れない
高橋留美子「可愛い花」


表紙や本のタイトルも含め
味も素っ気もないことはなはだしいが、
イギリスのACEレコードが最近精力的に編んでいる
ディープでいながら楽しみ方が初心者にも伝わる
素敵なポップスのコンピレーションを
漫画の世界でやられてしまったような
ショックをしたたかに受けた。


おそれいりました。