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なにかあり/とくになし

彼と彼女のリレー読書

DJ風リレー読み、とは
ものは言いよう。


かばんのなかには
たいてい2冊以上は本を入れておいて
移動中や空き時間に
とっかえひっかえして読む。


要は集中力が欠けていることを
逆手に取って弁解しているにすぎないんですけど。


古書コンコ堂で
大好きなアメリカ人作家
リング・ラードナーの新潮社版「ここではお静かに」をゲットしたときは
思わず「やった!」と声に出しそうになった。


文庫版とか選集とか
いろいろあるけど
昔、図書館で読んだこのシリーズ(全3冊ある)が
一番手に持って気持ちいいサイズなのだ。


各短篇ごとに扉に添えられた
木版画もおもむきがある。


「ここではお静かに」は
加島祥造さんが選定されたこのシリーズの3冊目で、
ありがたいことに
巻末には「リング・ラードナー小研究」も掲載されている。


とは言え
この巻は
個人的には冒頭の「ハーモニイ」に尽きる。
昔読んで何とも言えない感動を味わった。
今回も味わった。


歌の好きな、
それもひとりで歌うのではなく
男性4人のコーラスを追求してやまないひとりの野球選手の話。


彼は
野球をすることよりも
ハーモニイを骨の髄まで愛しているのだ。


そのテーマ設定だけで
もうたまんない。


ナンセンスで
どうしようもない
身につまされるハタ迷惑な感じ。
アメリカ版「わかっちゃいるけどやめられない」話を
さらりと書かせたら
とにかく際立った天才。


人間をクールかつユーモラスに書き、
なおかつ
あざけり笑いでお茶を濁すような真似をせず、
かと言って
ためになるような教訓は何も残さない(ように思わせる)、
そういうものをスタイリッシュというのだと
ぼくはリング・ラードナーみたいな文章から
今も学ぼうとしているところ。


ところで
リレー読書の話だった。


ラードナーと相性抜群なのは
山崎まどかイノセント・ガールズ」(アスペクト)。


アメリカの20世紀を生きた
多くは知られざる孤高で奇矯な女性たち20人の系譜。
一般的な基準から言えば
明らかに悲惨で救われない話を書いているはずなのに
どの女性からも
不思議と
救われる想いしか残らない。


このブログを読んでいるのは
音楽好きなひとが多いと思うけど、
「カレン・ダルトン」の一章を読むだけでも
山崎さんの筆力にはうならされるはず。


運命に翻弄されながらも
生きたいように生きた彼女たちの数奇で奔放な“あがき”と
ラードナーの描く数十年前のアメリカ人たちの“ヘンなくせ”は
淡々としているけれど
細かな起伏を宿す
彼(ラードナー)と彼女(山崎さん)による
とてもよいハーモニイになっている。


おかげで
今日もひと駅乗り過ごしそうになった。