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なにかあり/とくになし

シュガーマンを探して

ロドリゲスの「シュガーマン」を知っているか?


いきなりそう言われても困る。
1960年代末のデトロイトに現れた
メキシコ系混血のシンガー・ソングライター


ルックスや声はホセ・フェリシアーノにも通じるものを感じるが
ビル・ウィザースやテリー・キャリアーを思わす黒っぽさと高揚感と、
デトロイトのストリートで貧困や孤独にまみれて暮らす男の
ぬぐいがたいブルースがある。


ああ、それと
ガーランド・ジェフリーズみたい、とも言っておきたい。


…と知ったようなことを書いているが
実はロドリゲスのことを
ぼくは何も知らなかった。


今年のサンダンス映画祭で観客賞を授賞した映画
「サーチング・フォー・シュガーマン」を見るまでは。


いや、ぼくだけではない。
アメリカ人のほとんどだれも
彼のことは知らなかった。


70年代はじめにサセックス・レコードから出た2枚のアルバムは
セールス的にも評価的にも
まったく何も生み出さなかった。


サセックス・レコードのオーナーは
彼のセカンド・アルバム「カミング・フロム・リアリティ」について
「当時実際に買ったのはアメリカ中で6人くらいだろう」と言い放った。


だが、
本人はおろか
世界中のだれも知らないうちに
彼の歌声は遠く南アフリカに伝わり、
ファースト・アルバム「コールド・ファクト」は
50万枚という当時としては驚異的な売上を記録した。


シュガーマン」「アイ・ワンダー」など
孤独と苦境を題材にしながら自由に手を伸ばそうとする彼の歌が
政治問題、人権闘争で深い苦悩や不満を抱え、
アパルトヘイト撤回を求めて運動する
当時の南アフリカの若者たちの心を
人種を超えて強く打ったのだという。


だが、
ロドリゲスのレコードが
アメリカで出ているということはわかっても
レコーディングされた場所もわからないし
彼が今どこでどうしているのかも
まったく情報がなかった。


その結果
彼について
南アフリカで根付いた定説がある。


この孤独なシンガーは
ある夜のステージで拳銃自殺した。


いや
自分のからだに火をつけてステージで焼死した。


事実はだれにもわからない。
だが、
われわれの心を何年ものあいだとらえて放さないこの歌声は
いったいどこから来ているのか。


それが知りたい。


映画「サーチング・フォー・シュガーマン」は
その信念のもとに
ふたりの南アフリカ人音楽関係者が
ロドリゲスの謎を追ったドキュメンタリー映画だった。


この映画、
前半はロドリゲスがすでにこの世にいないというかなしげな前提で進むのだが
後半に
ある事実が判明してから
思いがけない展開を迎える。


ネタばらしはしたくないので
ここでは書かないが
その展開にぼくは泣いた。


実はロドリゲスの2枚のオリジナル・アルバムは
ファースト、セカンドともども
ライト・イン・ジ・アティックから数年前にリイシューされているのだが
日本でそれを興味深く買ったひとはほとんどいないだろう。


ぼくは
どちらも欲しくなった。
サントラも欲しい。


そしてこの映画の日本公開を望む。
いや、ぼくが知らないだけでもう話は進んでいるのかも。
だとしたら最高。


いい映画だった、マジで。
アンヴィル」で泣いたひとに是非(あ、ヒントを…)。



【追記】
この映画、
今年の「ラテン・ビート映画祭」ですでに日本上映が行なわれており、
来春には正式に日本公開の運びとのこと。


祝!