化学の変化
“へび花火”って、今でも売っているのだろうか。
黒い小さな玉に火を点けると、きれいな火花が出ることもなく、白煙をあげながら、じりじりにょろにょろと黒いボディがねじれながら伸びてゆく。
そこに何のカタルシスがあったのか?
へび花火が好きだという話ではない。
へび花火に似たものを見たことがある、という話だ。
それは凍った瓶ビールだ。
正確に言うと、凍りかけた瓶ビールだ。
急速に冷やそうとして冷凍庫に入れたまま、忘れてしまったあの瓶ビール。
気付いたときは、もうシャーベット状に凝固していた。
うわ! やっちゃった。
しょうがないので、取り出してテーブルの上に置いた。
すると、
「ヴォム」
と、やけに重たい音がして、王冠が口を半開きにした。
ゲゲ…。不穏。
背筋にささやかな戦慄が走るのを感じながら、その場を見守る。
化学の変化を見守る。
数秒後、堰を切ったかのごとく、本来ならしゃばしゃばと目にも美味しい白い泡となって注がれるべきものが、
じぇろじぇろじぇろじぇろと半ば固形化した状態で、てっぺんから溢れ出したのである。
白いへび花火……。
しばらくすると、室内には猛烈なビール臭が立ちこめていた。
匂いも凝固するのだということを、そのとき初めて知った。
飲食物の話が続いてしまった。