mrbq

なにかあり/とくになし

ブックカバー考

駅前には新刊書店が3つあって、
それぞれちょくちょく利用する。


そのうち、駅ビルの中にある一軒は、
いかにも中道な品揃えで、
あまり好奇心がくすぐられるところはないのだが、ただ一点。


ブックカバーの装着についての美学はズバ抜けている。


文庫でもコミックスでも、
いったんソフトカバーを外し、
そこにブックカバーを合わせてゆくその動作がきびきびと、
徹底されていていい。
ほんの一瞬だけど、
まるで、和民具の店で、ちょっとした買い物をしたような気分になる。


仕事の帰りに駅について、
もう閉店した駅ビルの通路を歩いて抜けることがある。
その書店も、当然もう店じまい。
透明のシャッターカーテンは閉じられている。


そのカーテンの向こう側、
書店の中に白髪の老女が車椅子に乗っている姿をよく見かける。
何をするでもなく、ぼんやりと書店の中を見渡しているのだ。


たぶん、彼女(もしくはそのつれあい)がこの店の創立者なのか、
本当のところはわからないからうかつなことは言えない。
ただ、勝手に思うのみである。


でも、あのブックカバーの美学を浸透させているのは、
彼女に違いない。
本が心底好きで、
本屋の空気を愛してなければ、
あの時間にあの場所に彼女はいないからだ。