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なにかあり/とくになし

月光社のことなど

荻窪の中古レコード店「月光社」が閉店したといううわさを聞いた。
まったく気がつかなかった。
偉そうにそびえるhpのビルのふもとにちんまりと、
しかし、しおれることなく存在を主張していた月光社。


店内は四畳半ほどのスペースしかなく、
壁にぎっしりLPが詰め込まれていた。


繁盛してる感じはまったくないのだが、
行くと必ず常連さんっぽいおじさんたちがいた。


ぼくが存在を知った十数年前は、
妙齢の男性ふたりが狭いカウンターの中にいた。


どうもあのふたり、東大卒らしいぜ。
そんな都市伝説を聞いたことがある。


やがて、そのうちのおひとりの姿を見なくなり、
いつしか若い店主(どちらかの息子さんか?)に代替わり。
それでも、古い日本盤中心の品揃えが変わる風でもなかった。


考えてみれば、月光社で掘り出し物に当たったことは一度もない。
それでも、何となく好きな店だった。
わびしいけれど、しゃんとしていた。
休日に降りているシャッターにかかった案内の札にも、
風流があった。


ところが、確認したら、ちゃんと営業してますがな、月光社。
そのしぶとさもまた魅力である。


しぶといと言えば、
中野に似たような感じの「文化堂」という、これまたけったいなお店がある。
この店もまだあるはずだ。
その店で「ロック」の棚を見ていると、レジのおばちゃんに
「あなた、クラシックは聴かないの? クラシックを聴かなければダメよ」
と諭されたことは二度や三度ではない。


高田馬場の老舗「タイム」のご主人が昨年末に亡くなっていたというニュースを聞いたのも
つい最近だった。
亡くなったのは創設者であって、現在の店長さんではない。
だから、お店の方は今も営業している。
だが、ぼくは大きなショックを受けた。


もっとショックだったのは、この話をしたときに、
ひとによっては「タイム? へえ、馬場にそんなお店があるんですか?」
という反応があったことだ。


ぼくの知る限り、日本中で一番、盤質に厳しく、表示が確かなのはタイムだった。


一日中、レコード屋を回っているのが幸せだった時代。
レコードを探すことよりも、レコード屋にいることが楽しかった。
いくらネットが便利になろうとも、
そんな思いとは縁遠くなりたくない。


最後にご報告。
阿佐ヶ谷駅からの帰り道にあるレコード屋の話は以前に書いた。
その店の名物おばちゃんの姿を最近見ない、という話。


店員さんに直接訊いた話によると、
来年早々には復帰出来る感じだということ。


来年早々……、って、まだ先だけど。
とりあえず、うれしい。