mrbq

なにかあり/とくになし

いもやで裏技を見た

お昼前、音楽出版社@神保町で
単行本の打ち合わせ。


誰のって、おれのです。


ようやく本に出来そうな目鼻が揃い、
そろそろお化粧を始めますか、
その前にもう少し手を入れましょうか、
そういう段階。


とにもかくにも発売日という名のゴールがようやく見えてきた。


打ち合わせ帰り、
同席した大江田さん(ハイファイ・レコード・ストア店主)が
何だかやけにもぞもぞしている。


「あのさ、この近所に、学生時代によく行った天ぷら屋があんだよね」


何だ、水くさい。
いや、油くさい。


というわけで、急遽、天ぷら「いもや」
ざっくりブランチ。


「いもや」は水道橋や早稲田にも支店があり、
木のカウンターでぐるりを囲んだ店構えには共通した感じがあるが、
メニューはそれぞれに少しずつ異なる。


今日、くぐった店には、いわゆる「天丼」がない。
メニューは「天ぷら定食」600円。
「エビ天定食」800円。
午後一時以降は、そこに単品追加をエトセトラ。


昼どきで店内はいっぱい。
壁際に立って待つ。
回転が速いので席はさくさくと空く。


並んでるうちに揚げ担当のおっちゃん(親方)がどんどん注文を取る。
注文といったって
「お客さん、みんな天ぷら(定食)だね!」
という程度の荒っぽいもの。
エビ天にしたけりゃ、「エビで!」と返事する。


さて、いよいよ着席。
席についてお茶が来たそのタイミングで、
大江田さんが若い店員(下条アトム似)に小声で言った。
「あなご、一個追加で」


「え〜、さっき“天ぷら”でいいって言ったじゃん!」
と露骨に困った顔をしながらアトムは親方に耳打ちしに行った。
「お客さ〜ん、先に言ってね〜。あなごは時間かかりますから〜」
と親方。
待ち人も含めた客席から、ほわっとした笑いが起きる。
大江田さんはちょっと恥ずかしそうにしつつ、
してやったりとうれしそう。


まんまとあなごをせしめたのだ。


あれ?
よく考えたら、あのとき、
まだ一時は回ってなかったと思うよ。
追加はNGなはず。


かつて知ったる裏技を使ったのだな。
やるな、おぬし。
歌舞伎の時代物の気分で大江田さんを見やる。
ひとが恋に落ちる瞬間……じゃなくて、
ひとのほほが落ちる瞬間を見た。


結局、ぼくもあなごを半分ほどご相伴。
神保町、いもや、午後一時。
憎いほどいい天気だった。