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なにかあり/とくになし

追憶の「大勝軒」東池袋店 ボーナストラック

大勝軒」からの時の流れはもう少しだけ続く。


大勝軒」への満腹感と満足感と
ほんのちょっとの寂寞感をたずさえて
ぼくとツマと弟は池袋駅に向けて歩き出した。


と、そのとき、
大きな交差点に差しかかったぼくたちの目の前を、
突然、見慣れないタイプの自転車がさっそうと横切った。


どう見慣れないかというと、
それは、乗り物のかたち。
さらに言って、それは漕ぎ方の問題だ。


自転車に乗るとき、
通常、ひとはサドルにまたがって、
前屈みになってハンドルをつかむ。


しかし、その人物は違った。
あの乗り方は何だ?


サドルにまたがって、背中の方へゆっくりと倒れる。
つまり、車体に寝そべる。
ペダルは前だ。
ハンドルは後ろ。


要するに、洋風風呂に浸かっている姿で
自転車を漕いでいた。


弟がポツリと言った。
「あれだったら、疲れんよなー。
 きっと通勤用よ」


何だそれ? あれだったら疲れんか?
あの寝そべりが理にかなってるのか?
おれだったら気を使って百倍疲れるわ!


謎の寝そべり自転車男は、
道すがらに大きな「?」マークをぽいぽいと投げ捨てながら
すいーっと駅の方へと向かい、すぐに見えなくなった。


自転車であれが出来るんだったら、
背泳ぎで足から先に泳ぐっていうのも出来るかもしれんな。


不意に浮かんだ妄想を口にしたら、
ツマも弟もノッてきた。


そのときは飛び込みはどうする?
手からじゃなくて足から飛び込むか?
ドロップキック風?
それともプールに後ろ向きに逆立ちして、
後ろから倒れ込むように?
そもそも、そのとき水をかく腕は通常とは逆回し?


話題は“あつもり”から“GHO(逆平泳ぎ)”に移っていった。
なんとなく追憶の「大勝軒」が
そのときぼくたちの中で成仏した気がした。


池袋で買物をするというツマ、
新宿で用事があるという弟と分かれ、
ぼくは渋谷の職場に向かった。
気がつけば、5分ほど遅刻しそうであった。