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なにかあり/とくになし

ピアノと彼女

夜8時からライヴがスタートという設定は
早く終わるからという辻褄合わせではなかった。


なにしろライヴは
短い休憩を挟んだとはいえ
2時間半以上続いたのだ。


会社帰りのひと、
用事を済ませてくるひと、
どうしても見てほしいひと、
そういった方々への配慮ゆえの夜8時。


中盤にソロ・コーナーを受け持った佐藤良成をはじめ
ゲストはレコーディングにも参加した気心の知れた連中だけで
特別な装いはほとんどない。
ピアノと彼女。


2度目のアンコールとなり、
ラストに選んだのは
西岡恭蔵の「グローリー・ハレルヤ」。


あまりにも好きすぎて
デビュー・ライヴ以来(人前で)歌えていないと
ささやくようにMCし、
彼女はひとりで歌に立ち向かった。


その張り詰めた歌を聴いていた観客はみな
息を止めて水の中にもぐっているような
深さを彼女とともに味わい、
やがて水面に顔を出し、
大きく息をした。


救われるとか
救われないとかではなく、
音楽による開放とはそういうことの体感であったりする。


歌詞帳らしき小さなノートを抱えて
ステージを去る後ろ姿まで愛おしく思えた。


寺尾紗穂
ソロ・ライヴ@渋谷クアトロは
得難い体験だった。