ハリケーン・スミス

ハリケーン・スミスには2人の兄弟がいた。

上の兄はタイフーン・ジョー。
下の弟はウィンディ・ビー。

ウィンディ・ビーは戦争で
若くして死んだ。
タイフーン・ジョーとは
もうずいぶん永く会ってない。

50歳になろうかという年に
ハリケーン・スミスは
しゃがれた声で
歌手としてデビューした。

技術屋としてスタジオで働いてきたスミスに
そんな野心があったなんて
誰も気がつかなかった。

何が間違ったのか
彼の歌はヒット・チャートを駆け上がり、
彼は一瞬のスターダムを味わった。

親戚のヴァイおばさんの歌が
一曲目に入ったようなヘンなレコードを
みんなが聴いてくれたなんてね。
すごいね。

スミスは
もう永いこと話していない兄と
もうそこにはいない弟と
遊んで
話して
けんかして
はなれたりくっついたりした
短すぎたこどものころを
思い浮かべながら
ファースト・アルバムを作った。

家族や親戚の笑う顔や
困り者のおじさんの問題に悩んだ顔や
ピクニックの途中で振り出した大雨なんかを
思い出しながら
そのレコードを作った。

ハリケーン・スミスは85歳で死んだ。
大往生だった。
兄のタイフーン・ジョーには会えただろうか。

ハリケーン・スミスの歌声は
今でも
木枯らしのように寂しくて
春風のようにぬくもっている。

※ご注意
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