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なにかあり/とくになし

タブチへ行ったふたり

知り合いをふたり
けしかけて「タブチ」に行かせてしまった。


「タブチ」とは
高円寺から阿佐ヶ谷に続く高架下にある
ラーメンとカレーの店。


ジャンクな定食屋とも言う。


昔、その近所に
ぼくは住んでいた。


ラーメンはいわゆる“ゴム麺”タイプで
あまりおすすめしないけれど、
ここのカレー、
それも辛口カツカレーは
今でもときどき無性に食べたくなる。


そんな話を
車で家まで送り届けてもらっている夜
同乗のふたりに興奮気味にしゃべったら
ぼくをおろしたあとで
「タブチ」へ行ってしまったというのだ。


もちろんメーン・ディッシュは
辛口カツカレーで。


ひとりは調子に乗って大盛りを頼み、
ひとりは餃子を追加したそうだ。


お店の厨房は
基本的におじさんひとりで切り盛りしているのだが、
昼から深夜まで働いていて
よく続いているものだと感心する。


深夜に店の前を通りかかると
いすの上に死んだようにして寝ていた姿を
よく覚えている。


もっと謎なのは
そのおじさんがフランス料理の本格的な修行を
積んだ経験があるといううわさについてだ。


あの辛口カツカレーの
どのへんがいったいフレンチなのか?
しいて言えば濃い味なところか?


その都市伝説は
ぼくの中で
決して解き明かしたくないタイプの
心の迷宮として
大事に取っておいてある。