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なにかあり/とくになし

おまえ立て

廊下に立ってなさい、
という言葉を耳内でエコーさせるうちに
ある光景が浮かんできた。


まだ新宿に
日清パワーステーションというライヴスポットがあったころ。


そのころ、
チケットを並んで取るという習慣はまだ普通のことで
確かそのライヴは
特別にパワーステーションで
直接発売されるということになっていた。


早朝、いや深夜から
地べたに座って並んでいたのは
S田、よっちゃん、ぼく、それからそれから……。


S田とよっちゃんとは故郷からのおさななじみで
ふたりともぼくとは
そのとき初対面だったと思う。


そのうちしらじらと夜が明けてきて、
闇から解放されたので
眠気覚ましにトランプでもしようという話になった。


それが大貧民だったかドボンだったか
それも定かではないのだが、
ひとつだけ鮮明に覚えていることがある。


最下位になったら
その人物は次のゲームに
ひとりだけ立って参加する。
それをルールにしようと
ふたりが言い出したのだ。


よっちゃんはよくドベ(最下位)を取った。


そのたびにS田は
「おまえ立て!」と冷たく言い放った。


よっちゃんは
「こんな屈辱ないわ〜」と
笑いながら怒っていた。


大柄で人の好さそうなよっちゃんが立たされて、
身をよじらせて怒りにふるえる姿は
見ているだけでおかしかった。


後年、
その罰則に味をしめたぼくは
違う友人たちとの似たようなシチュエーションで
そのルールを提案したことがある。


「おまえ立て!」
そう言われて立ったのは、ぼくだった。


立たされて
上から見るトランプのゲームの楽しさは
なんだかとても自分から遠く思えて
ひどく屈辱的で、
ぼくも身をよじらせながらフンガイした。


あれは効く!


そして、書いてるうちに思い出した。
そのライヴは麗蘭仲井戸麗市+蘭丸)でした。