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なにかあり/とくになし

中野中華奇譚

渋谷でツマと待ち合わせて
何か食おうかと思っていたのだが、
やはり阿佐ヶ谷にするべえと
山手線に乗り込んだ。


新宿に着くと
吉祥寺駅での人身事故により
総武線は中野までの折り返し運転中とのアナウンス。


ならば
中野で美味いところはないかと
中野の弟を呼び出した。


缶ビールを一本空け、
洗濯機に靴下を一本放り込んだところだったという弟は
ちょっと赤い顔で現れた。


「行きたい飲み屋があるんじゃが」という誘い文句を
腹が減ったからと固辞し、
だったら昔食べたことがある
非常に美味い中華料理屋に行こうと
中野の奥に少し入り込む。


そこは、
失礼ながら見た目には
“名店”とは、とても気がつかない
しなびた街の中華屋だった。


中に入ると
テーブル席がふたつ、
カウンターに席が5席ほどの小さな店。


しかも
奥のテーブルは
5人の若い男性に占拠されていた。


ただでさえ小さなテーブルに
覆いかぶさるようにして
黙々と次から次へとやってくる料理を食べる男たち。


会話がほとんど聞こえない。


あいつらは何だ?
若者って、もっと元気でうるさいんじゃないのか?
秘密結社か?
中華料理を分析する愛好会か?


そんな疑問を解決してくれるのは
料理だった。


オイシイデス。


美味いものを前に
ひとは黙る。


水餃子、酢豚、雑炊、焼きビーフンなどをたいらげ、
店を出た。


出てみて気がついたが、
「当店にはチャーハン、ラーメンはありません」
というような意味の貼り紙が窓にあった。


その貼り紙に「?」と思えたら、
そのドアを開けてみよ。