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なにかあり/とくになし

10月27日といえば

話題はふたたび1989年のニューヨークに戻る。


2日連続のストーンズ詣でが終わり、
トラベラーズチェックをドル札に換金した直後、
ホテルの部屋から現金が消えた。


その額、
500ドル。


盗難だ!
フロントに掛け合うが、
うちのホテルでそんなことはありえないと取り合ってくれない。


仕方なく
警察を呼ぶ羽目になり、
英語で尋問を受けた。
こちらの英語力なんか関係ない。
まるでこっちが犯人のような気分になる。


結論から言うと
犯罪都市ニューヨークで
500ドルの盗難は犯罪の域に入らない。
“盗難”ではなく
“紛失”の類と思ってあきらめろ。
そんな感じの取り調べだった。


疲労困憊で部屋に戻ると、
すれ違いざまにメイドが
「ソーリー」とつぶやいた。


ベッドに倒れ込み、
夕方まで寝込む。
明日からの活動資金が無くなったのだから、
そりゃショックだった。


トントンとノックの音。
事情を聞きつけたKがやって来た。
ドアを開けると
その手にはテイクアウトのチャイニーズ。
やつなりのなぐさめだった。


めしを食いながら
きっとすれ違ったメイドがあやしいぜ、などと話しているうちに、
クレジットカードでキャッシングをして
急場をしのげばよいのではないかという案が出た。


この旅行のために生まれて初めて作ったカード。
ショッピングでは使っていたが、
まだキャッシングはしたことがなかった。


善は急げということで
早速夜のATMに。
Kに立ち会ってもらいながらおそるおそる操作をすると、


「GET CASH!」


という景気のいいメッセージとともに
現金が出て来た。


消えたはずの現金500ドルが目の前に!
やったぜ、とうちゃん!
ついでにもう300ドル多めに引き出してみよう!


それからあとは
いきなり気分が回復し
「GET CASH!」「GET CASH!」と連呼しながら
夜のグリニッチ・ヴィレッジを闊歩したのは
言うまでもない。


翌日の誕生日をストーンズに祝ってもらうため
ぼくたちはダフ屋を使って
残りの2公演も見ることに決めた。


帰国後、
「あなたは海外で限度額以上のキャッシングをしました」
というメッセージとともに
いきなり数十万の負債を背負うのだが、
それはまたのちの話ということで……。