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なにかあり/とくになし

ミートソースという名の頓服

最近はボロネーズなどと
クラシックの小品みたいな名前が定着しているが、
要はミートソースのこと。


肉、そして、汁。


こどものころ、
家族でレストランに行くときがあると
いつもきまってミートソーススパゲティ。


何があってもミートソース。
生トマトは食べられないのにミートソース。
メニューが何十ページあろうが
求めるものはミートソース。


そんな時代が長かった。


極度の偏食という事情もあったのだが、
何かが嫌いだからという反対理由以上に
単純にあの味を、あの食感を愛していた。


長ずるにつれてその度合いは減っていき、
大人になってからは
パスタ屋に入ってボンゴレなんぞを注文しくさるのだが、
ほほお、
そんな大人になりすましたかと
心の底をちくちくと刺すやつが
自分の中に住んでいる。


そのちくちくが空けた穴を
ときどき大きく開放してやることが必要なのだ。


今でも年に何度かは
ミートソースをこどものように食べることを
自分に許す。


物心がつくはるか以前、
自分がどこから来たのかを確認するようなものでもあり、
「好き」ということには理由もへったくれもないという
みもふたもない感情をキープしておくためでもある。


何かを論じ、評することがしんどくなったときに
その感情は
まるで頓服のように、
とても役に立つ。


何を偉そうに。
ミートソースの話ですよ。
でも、大好きな
ミートソースの話なんですよ。