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なにかあり/とくになし

ママの買い物につきあう

こないだ吉祥寺に行ったら
駅ビルのCDショップで
大規模なバーゲンセールをやっていた。


目玉はDVDの在庫処分ワゴン。
半額なんてまだ甘ちゃん。
ぼくが嬉々として買ったあのボックスセット(あえて言わず)も
6分の1程度の金額で叩き売られていた。


我輩は主婦である」のボックス上下巻が
これまた涙がちょちょぎれる低価格で販売されていて
思わず手に取ってしばらく思い悩む。


これは幸福な“縁”じゃない。
“円”のマジックが見せる偽の夢だろう。


と自分に言い聞かせる。


だいたい見てる時間もないし、
置き場所でも揉めるし、
一度見たらもう見ないだろという定説もあるし……(未練たらたら)。


そんな風にもじもじと突っ立っていたら
乳母車を押したヤンママ風の主婦(以下、ママと呼ぶ)が通りがかり、
CGアニメ「Mr.インクレディブル」の巨大なDVDボックスを手に取って
しげしげと眺め始め、
店員を呼び止めた。


横からチラ見すると、
5000セット限定生産。
大判の本や額縁入りの複製セルなどが入った特装版。
それがこのワゴンではン千円だというのだ。


「あのー、
 これってさー、ディズニーの漫画だよね?」


「はあ、そうです」


「これってさー、
 顔、長い?」


「は?」


一瞬固まる店員。
ついでにぼくも固まる。


「長いやつだったら上の子が気に入ってんのよ」


永遠に固まったままかと思われた店員だが
ややあって体勢を立て直し、
セールストークに転じた。


「この作品の主人公の顔は長くなくまるいですが、
 スーパーパワーを持った一家の活躍物語で
 笑いあり涙ありアクションあり、
 ご家族みなさんで楽しめますよ」
なんたらかんたら……。


お見事!
店員さんに
折れない心を見た。


ママは
「そこまで言うなら買うわ」と
野菜の特売品を買うような調子で
大きな箱を手にしてレジに向かったのだった。


ママのお買い上げを見ていたら
自分の中の購買欲が
喉のつっかえが取れたようにすっと抜け、
手ぶらで店を出ることに成功した。


サンキュー、ママさん。
まるい顔の主人公も
上の子が愛してくれますように。


そのあと
ハタと思いついた。


“長い顔”って
トイ・ストーリー」だったんだ!