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なにかあり/とくになし

僕の読書感想文

近田春夫「僕の読書感想文」(国書刊行会)が
すでに出回っているという話を知って
少し狼狽した。


今年の前半、担当編集者のT本氏から
「今、近田さんの本を作っているんですよ。
 「家庭画報」に連載している書評をまとめたものです」
と聞いたとき、
T本氏、および国書刊行会
一般的な出版社のシメキリやノルマ・ベースの考えとは違う
鷹揚な時間の流れをイメージして、
来年が楽しみだなと、失礼なことを思っていたのだ。


変な言い方だが、善は急がれたわけだ。


そして昨日ようやく
書店で手にした「僕の読書感想文」は
期待通りの名著になっている。


“なっている”と書くのは
まだ読み始めたばかりだからだが、
「まえがき」をぼくは二度読んだ。


ここで近田さんは
“先生”と今はこの世にいない“友”について書いている。


いつも颯爽と
ひとりできびきびと生きている印象のこのひとから
こういう感謝と感傷を受け取るのは新鮮で
この一文だけで
この本を手にした価値は早くも高まったと思った。


帰りの電車の中で
iPodを聴きながら読もうと思い、
最初はスティーヴィー・ワンダーを聴いていたのだが、
どうにも音がうねうねと
読書に対して邪魔くさい。


何かいいのはないかとライブラリーを探したら
ずいぶん前に読み込んだ
ブッカー・T&MG'sの「グリーン・オニオンズ」が出て来た。


近田さんに一回だけインタビューさせていただいたときに
緊張しっぱなしだったその一時間で
ほとんど唯一、顔がほころんだと思えたのは
MG’sへの愛を語ったときだったと思い出した。


はたせるかな、
MG’sの淡々と骨太なグルーヴは
近田さんの書き言葉に流れる
シンプルな色気や
たくまざる含蓄と、
とてもスイングする。


電車が阿佐ヶ谷に着いて
本をたたんでも
ぼくはしばらくMG’sを聴き続けていた。