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なにかあり/とくになし

ディズニーで桜を見た

本当はかなしい報せがあったんだ。
身近で泣いている人もいた。


だけど、
今日という一日を
ぼくたちは甥っ子のために
すべてを忘れて楽しく捧げることに決めた。


だからこうして
ディズニーのすぐそばにあるホテルに
金曜の晩から泊まり込んだ。


春休みの最後の週末を利用して
東京にやってきたぼくの長兄の長男(+甥の母+ぼくの母)と、
「朝5時半に打ち合わせしようぜ」と約束して
昨夜は別れた。


ひょっとして彼が起きられないときのために
打ち合わせのための事前打ち合わせ(実はそれが本当の打ち合わせ)を
寝る前にちょっとだけ済ませておいて。


よしわかった。
キミが行きたいのは
あれとあれとあれとあれ、ね。


ディズニーランドに着いたのは
ちょっとだけ出遅れて朝8時半過ぎ。
今日という一日を
忘れられないものにするために
一同は門をくぐった。


以下、入場したアトラクションを順に記す。


カリブの海賊
魅惑のチキ・ルーム
スイスファミリー・ツリーハウス
ミクロアドベンチャー
ショー「ドリームス・ウィズイン」鑑賞
カントリーベア・シアター
ビッグサンダー・マウンテン
デイパレード「ジュビレーション」鑑賞
再びビッグサンダー・マウンテン(甥っ子のみ)
イッツ・ア・スモール・ワールド
ガジェットのゴーコースター(ここから中野の弟合流)
ロジャーラビットのカートゥーンスピン
アリスのティーパーティー
再びイッツ・ア・スモール・ワールド(中野の弟と松永良平のみ)
エレクトリカルパレード・ドリームライツ鑑賞
スペース・マウンテン
降雨のため花火(ドリームス)は中止


雨降る中で強行された
エレクトリカルパレード
川面のようになった路面に反射する電飾が美しすぎて
その行進はもう完全にこの世のものではなかった。


甥っ子が事前に付けていた星印の中では
スプラッシュ・マウンテン
ピーターパン空の旅、制覇ならず。


だけど、
夢みたいな一日だったから
続きはこの次にしようと
甥っ子は言った。


これから4年生になって
中学生になって
声変わりもして
生活も性格も変わってゆくきみが
この続きを忘れないのなら
いつでもつきあったげる。


時計が午前0時をまわるころ、
ようやく阿佐ヶ谷に到着。


隠れた桜の名所である白鷺ハイムの脇を通ると
満開の桜がヘッドライトに照らし出された。


そう言えば
ディズニーでは桜を見かけなかった。


いや待てよ、
トゥーンタウンの隅で一本だけ見かけた。


こどももおとなも架空の世界に迷い込む
ディズニーがディズニーであるために
現実の世界や風物と関わりを断つ。
そこのところはとにかく徹底されている。


だから桜はない。
日本の風物詩は気持ちをウェットにしてしまうからだ、たぶん。


だけど、
ディズニーの桜はひっそりと
かつ凛として咲いていた。


日本の花とか“やまと”とか
そういうとってつけた精神じゃなくて、
これほどの群衆に囲まれていても
自分が埋もれてしまわない
ひとりの自分であることを意識させるような
そんな人間のたましいにも似た立ち方だった。


長い一日を締めくくる
やさしいファンファーレを聴くように
ぼくたちは阿佐ヶ谷の桜並木の下をくぐった。