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なにかあり/とくになし

中国行きの遅すぎるスロー・ボート

大学のころから知っている友人が
中国に移住するという。


前から中国関係の研究をやっていたことを知っていたが
先方からのお誘いで
本格的に向こうの大学で学問の道に進むことになった。


で、いつ発つの?と訊くと
もう二週間足らずで、とのこと。


急遽、送別会が行われるというので、
観戦予定だった「はまけんジャズ祭2009」には失礼をさせていただき、
雨の中、東中野の沖縄料理店に向かった。


中国側のホストになる大学の先生は
「養子にしてもいい」と公言するくらい彼をかわいがっているそうで、
まさかそんなことはと本人も笑いつつ、
あながち永住という選択肢もないではないという感じ。


この話が電話でつたわったとき、
報せてくれた友人にぼくが言ったセリフは
「そんな人生があるのかー」
という間抜けなものだった。


傍目にはふらふらした謎の男としか見えなかった彼が(失礼な!)
他国の学者に、自分の跡継ぎにと請われるほどの傑物であったとは!
現代の中年男性にだって
シンデレラ・ストーリーはあるものなのだ。


もちろん、ひと知れず続いていた
学問の積み重ねという前提がある話とは言え、
つくづく先のことはだれにもわからない。


ゴーヤ天ぷらをつまみながら
今朝、電車に乗っていたときに見かけた親子のことを思い出した。


おりしも夏休みの
ポケモン・スタンプ・ラリーなる恒例の催しが
都心のJR各駅では行われており、
親子連れが一日乗車券を手に
あちこちの駅で乗ったり降りたりして
ポケモンのハンコを集めている。


新宿駅に着くと
一般のお客に混じって
ポケモン親子たちもずらずらと大移動をするのだが、
ひとりの子どもが
「え? もう降りるの?」と言ったのだ。


たぶん、
彼はみんなと同じようにハンコを集める
決まりきったことより、
もっと電車に乗っていることの方が楽しいと
瞬間的に思ったのだ。


それは一瞬の気持ちの揺れで、
次の瞬間には、電車に乗り続けたかったことなんて
すっかり忘れてハンコの列に走っているかもしれないけれど、
もし乗り続けていたら
その子の人生は大きく変わる……とは思わないが、
ちょっとずつは変わるかもしれない。


友人は
中国に向かう
ひどくゆっくりとした
停滞も道草も逆戻りすらある
遅すぎるスローボートに乗っていたのだと思う。
無駄だから降りろと言われても
ふらふら、やんわりと拒みながら。
そしてその船は
いよいよ岸に着く。


だから
ポケモン・ラリーの子どもよ!
その電車、降りんな!
一駅でいいから乗り越せ。
そしたらきみの未来はちょっとだけ変になる。


妄想は終わって
ふわっと現実に戻った。
いつの間にか横には中野の弟がいた(経緯はこちら参照)。


奥の席にいたカメラマンの友人に薦められて
ぼくは泡盛をロックで飲んでいて
いい加減に酔っぱらい始めたところだった。