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なにかあり/とくになし

なるほど・ジャナイ・ワールド

こないだ、
とある場所で知人に
新人UKバンドのレコードを聴かせてもらう機会があって、
ふたりでおずおずと針を落とした。


そのひととぼくとは、
最近の新譜は
CDではなくアナログのLPで買うという
ポリシーで意見が合っているのだった。


最近の欧米のレコードやCDの風潮としては
いろんな音楽雑誌のレビューを抜粋して
ステッカーにして貼り付けたりしている。


たとえば
「こいつは10年にひとりの逸材!」
 ーーローリング・ストーン
「すべてのロック・バンドはこいつらを見習え」
 ーーMOJO
みたいな。


まあ、推薦コメント文化みたいなのは日本にもあるし、
ぼくもときどき頼まれて書いたりする。
それ自体の必要性は少なからず認める。


その日に聴いたレコードは
結構ぶっとんでいた。


奇妙に弛緩したアコースティックなサウンド
どろーんとした電子音が絡み
さらにその中を、
どろどろどろ〜んとした低い声が
うねうねと這い回っているという印象だった。


ぼくに推薦してくれた知人も
評判を聞いて買ったはいいが
音は初めて聴いたらしく
何となくうろたえている。


「なるほど……、
 ヴォーカルは
 アントニー&ザ・ジョンソンズみたいですね……」


その独特すぎる声を
かろうじて褒めてみようと思い
意見をしぼりだした。


心の中では
「いや、これ絶対によくないよ。
 これが評判になっているのは世も末だよ!」
と思ったりしているし、
先方も明らかに苦渋の表情なのだが、
こちらからそれを切り出すわけにもいかない。


緊迫した将棋のような時間が流れた……。


そのとき
奇手がひらめいた。
ひょっとして、これは……。


ぼくは右手の人差し指を
「王手!」風にばさっと振り下ろした。


その先は
「33回転/45回転」のスイッチャーだ。


ポチッとな。


すると、
それまでの不快な空気は消え失せ、
音はリズムを取り戻し、
少女のような声があたりを満たしていったのだった。


「これは……、
 いやあ、たぶん、これでよかったんですよね?
 フェアグラウンド・アトラクション
 モダンにアップデートしたような感じかな?」


まだ世界はそれほど遠くまでは行ってないという奇妙な安堵と、
何だか結構普通だなと思ってしまう残念さが入り交じって
ぼくらは少しどぎまぎしてしまった。


「なるほど」なんて
簡単に言うもんじゃないすね。


あのステッカー、
いろいろ推薦文書くよりも
「このレコードは45回転ですよ」って
書いておくべきだったと思うよ。
まったくもう。