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なにかあり/とくになし

頑張った証についての松永兄の考察

夕方、
鼻の穴のあたりが何だかむずむずするので
人目を避けて手をやると
“頑張った証”が「どうも」と顔を出していた。


いやなに、
かわいいものですよ。


この“頑張った証”というのは
中野の弟とぼくが
かつて産み出した造語のこと。


この言葉については
こちらに説明がある。


ただし、
この説明について
ぼくは強い不満を覚えている。


なので
もう一度そこをほじくり返してみたい(鼻の話題だけに)


用語の説明としては、
まあこれでよかろう。


しかし、
そこには
そもそも何故その言葉がふたりの間で
大ブレイクしたのかが一切書かれていない。


あれはアメリカの空港でのこと。
運転手として弟が付き合ってくれた夏の買付もすべて終わり、
あとは待合カウンターで搭乗を待つのみとなったころ。


そろそろその時間だというので
兄弟はいさんでゲートに近づいた。


と、そのときだ。
数千キロを走り終えた難事業の疲労からか
いつもよりもずっと濃いあご髭をアピールする弟の
左の鼻の穴から
「やあ!」と勢い良くはみ出しているものがある。


やつ(弟)がいつもそれを見逃さないように
ぼくもそのごあいさつは
しっかりとキャッチした。


そこで
「●毛、●毛」と指摘するのも
いくら異国とは言えおとなげない。


ここはひとつセンス良く行こうと思い
例の“頑張った証が出てますよ”というひとことを言おうとした。


「なあ、頑……」


だが、
その名フレーズを言い終えるには
長旅の疲れとアメリカ旅行が終わる切なさとが入り交じった
弟の甘酸っぱい表情が素晴らしすぎた。
しかも、その中央からは元気な”頑張った証”が
ピン!と豪快に自己主張をしているのだ。


「頑ぶぁ……ぶはははははははははは!」


結局、
ぼくはそこから先が言えずに
爆笑しながらへたりこんでしまった。
周囲のアメリカ人たちは
いったい何が起こったのだとじろじろと遠巻きにぼくを見ているが
もうこらえられないのだ。


さらに
「どうした! どうしたのだ!」と
弟が心から心配した顔(+頑張った証)で
ぼくの顔を上から覗き込んでくるんだから
火に油を注ぐようなもの。


「はひゃ、はひゃ、はひゃ……」


息も絶え絶えになりながら
ようやく自分を取り戻したぼくは
弟の“頑張った証”が元気いっぱいに主張していますぞと指摘した。


そのあとの
彼の狼狽については
いちいち記さない。
察してください。


その件があってから
弟のぼくに対する”頑張った証”チェックは
麻薬犬並の厳しさとなり現在に至る。


先日のぼくの失態
常にリベンジの機会をうかがう弟の
ぼくの●毛に対する日々の研ぎすまされた鍛錬の現れであり、
普通のひとだったら気がつかないよ!
そうだそうだよ!(自己弁護)


それにしても
切羽詰まったときにうまいこと言うのって
本当に難しいですね!