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なにかあり/とくになし

家をつくるなら

知り合いが山奥に家をつくるのだと聞いた。


どこでどう話が間違ったのかわからないが、
いつの間にか
ぼくの頭の中では
それはこんな話になっていた。


知人(男性)の義理の父親からくだされた大胆な宣告。
それは、
「おれが土地を用意してやる。
 男なら、そこに自力で家を建ててみろ」
というものだった。


よし、おれも男だと一念発起した彼は
その申し出を受けた。


しかし、
家をつくると言っても簡単じゃないよな。


山に分け入っては材木を切り出し、
セメントまみれになった家の基礎をつくり、
水道を引き、ガスを引いたり……。
それとも郊外のホームセンターには
「これで家一軒建ちますセット@一千万円」みたいなものが
売り出されているのだろうか……?


いやー、若いのによくやるな!


そんなふうに感心しきりであったところに
先日、不意にその知人が顔を出したのだった。


今つくっている家はいつごろになりそうかと
ぼくは訊いた。
なにしろ大事業なのだから
「自分が生きているうちには完成しないかもしれない」ぐらいの
厳しくも深い答えが返ってくるのを想像して。


「いや〜、来年の春には出来そうです」


え?
すごいな。
確かに彼は芸術方面で生きている男だけれど、
工作にも覚えがあったとは知らなかった。
いや、家を建てるのと工作は別か?
とにかく、すごいな……。


ぼくの向けている畏敬のまなざしに気がついたのか、
彼は言った。


「松永さん、何か勘違いしてませんか?」


………………勘違いしていました。
彼の建てる家は
ちゃんと本職のひとが設計して
本職のひとに施工をお願いして
本職の大工さんが建てているのだそうです。


そりゃそうか。
「そりゃそうですよ!」


勝手に期待して
勝手に落胆する。
ぼくのわるいくせだ。
またやってしまった。


でもまあ、
おもしろかったからいいか!
少なくとも数ヶ月は
ぼくはその妄想を楽しめたのだから。


「家をつくるなら」という曲がある。
最近もCMに使われていたし、
ひょっとして加藤和彦の残した名曲で
世間に一番耳なじみがある曲のひとつではないか。


あれほど洒落たセンスを持ち
音楽的な流行にもこだわるひとだったのに、
彼の名曲のうち世の中に響いたメロディの多くは
どこか童謡にも似た雰囲気を持っている。


それはかけがえのない素晴らしさにもなり
ときには何だか音楽にそぐわない違和感にもなった。
あれはいったいどこから来ていたんだろう。


吉祥寺Star Pine's Cafeで
ショピンのワンマン・ライヴを見ながら
彼らの奏でる未知の童謡のような曲想に触発されたのか、
何故かそんなことを考えたりしていた。


加藤和彦のこと、
意外と尾を引いている。