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なにかあり/とくになし

「大人になれば」を聴く

わずか2、3日の間に
数珠つなぎで訃報が続いて
おどろくしかない。


ニューオリンズの稀有で寡作なシンガー・ソングライター
運命に翻弄されながら強く生きたサイドスローの投手、
そして
もう二度と彼女のようなひとは現れないだろう女性シンガーの
公演先での客死。


これはこたえた。


彼女について
ぼくが何かを書くより
ここを読んでもらう方がいい。


東芝EMI(現EMI Music Japan)の名ディレクター、
加茂啓太郎さんと
世代が違うと思えた彼女に
これほどのかかわりがあったとは。


興味深いのは、
いつの時点かわからないが
加茂さんが彼女に小沢健二を聴かせたときの反応。
オザケンの歌は下手ではなく
特別なものだと認めた上で
彼女はこう付け加えたという。


サウンドは悪くないけどベースが少し残念だ」


その発言が影響したのかどうか
96年の秋にリリースされたシングル「大人になれば」や
続くアルバム「球体の奏でる音楽」には
ピアニストの渋谷毅に加えて
ベーシストに川端民生が起用されている。


ファンならすぐにピンときただろうが、
このふたりのジャズ・ミュージシャンを
好んで起用していたのが彼女だった。


「ベースが少し残念だ」とかつて言い放った彼女は
この曲を聴いて
ちょっとはニヤッとしただろうか。


その川端民生さんも
2000年に亡くなっている。


あの世で良いセッションを……なんて
型通りの言葉が彼女に似合うとは思えないが
良いベーシストは
あの世にだっていた方がいいに決まっている。


とむらいには
「あたしのブギウギ」や「難破ブルース」を聴くつもりだったが
小沢健二の「大人になれば」を聴くことにした。


シングルCDに収められた
インスト・ヴァージョンで
川端さんの太くて動じない歌心を持ったウッドベースを聴こう。
川端さんのこの音を愛したひとのことを思いながら。