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なにかあり/とくになし

ムッシュとからす

飛行機が離陸したら
すぐに扉ページをめくった。


だが読み始めてすぐに
あちゃちゃと天を仰いでしまった。


これ、読んだことあるわ。


ムッシュかまやつの自伝「ムッシュ!」は
単行本で出たときに読んでいたのだ。
その文庫版だと
どうして気がつかなかったのだろう。


それでも
機内に持ってきた本は他になかったし、
だいいちムッシュの話そのものは
何度読んでもおもしろいことは間違いないのだから
もう一度読むことにした。


ひさびさに読むと
いろいろと発見もあった。


ムッシュが今あらためて歌ってみたい曲の中に
ユーミンの「中央フリーウェイ」や
自作の「どうにかなるさ」に加えて
小坂忠の「からす」が入っていたり。


2002年に単行本を読んだときにも
確かに同じ部分を目は通っているはずなのだが、
その「からす」というセレクトに
当時はときめかなかったということなのだろうか。


2010年のぼくの方が
あの「からす」という曲を
求めているということなんだろうか。


小坂忠が1971年にリリースした
素晴らしいデビュー・アルバム「ありがとう」の一曲目である「からす」と
ムッシュの間にある関係は
以下のようにも考えることが出来る。


彼が入り浸っていた飯倉のキャンティ
キャンティの経営者であった川添浩史さん→
長男である川添象郎さん→
川添さんと村井邦彦さんが立ち上げたマッシュルーム・レコード→
マッシュルームからデビューした小坂忠
そのデビュー・アルバム「ありがとう」→
「ありがとう」を聴いてみてほしいと渡されたムッシュ


ぼくたちのように後追いで体験して
さも新しい曲であるかのように興奮するのではなく、
30年ぶりにポッと浮かび上がってきた「からす」というたとえが
まるで寝かし続けた酒のしずくみたいに思えて、
くらくらと軽いめまいを覚えたのだ。


30年ぶりの「からす」。
8年ぶりの「ムッシュ」。


1時間ちょいのフライトだったのに
おもしろすぎて
着陸するまでに読み終えてしまった。