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なにかあり/とくになし

グッド・モーニング、スカーレット・ヨハンソン

今週から暖かくなるという予報を裏切るような寒い朝
気分をぐっと上げたくて
CDをかけた。


ピート・ヨーン&スカーレット・ヨハンソン
ブレーク・アップ」。


去年の秋に発売されたことは知っていたけれど、
ヨハンソンのファースト・アルバム
「エニウェア・アイ・レイ・マイ・ヘッド」が
あまりに耽美すぎたためか
セールス、評価ともに不振で(こけおどしとも言う)、
デュオ名義で比較的ひっそりと発売されたこの新作に手を出したひとは
それほど多くないのではないかと思う。


ピート・ヨーンは素晴らしい現代シンガー・ソングライターだが、
すごく旬な名前であるとも言いがたい。


だが、
結論から言うと、
(音楽的に)しくじった美女と
才能はあるのに今ひとつパッとしない男の
ちょっと見過ごされた感のあるこのデュエット・アルバムは
おそろしく素晴らしい。


もっと正確に言うと
その素晴らしさは
まだ寒い冬の朝に
外に出かけなくてはならないときに
気分を無理なくあげてくれるという意味でのものだ。


iPhoneに入れた一曲目「リレイター」を
ぼくは今日何回リピートしただろうか。


気のない(音痴とも言う)ヨハンソンの歌を
つっけんどんにエスコートしながら
ちょっと寒いけど街に出て朝メシでも食おうぜと誘うような
ヨーンのサウンドメイキングが
最新型という意味とはまた違った
チープだがジャストな今っぽさなのだ。


考えてもみろ。
相手はスカーレット・ヨハンソンだぜ。
彼女が朝から自分の背中にしなだれかかられようものなら
誰だってもうその日は仕事なんかしない。


だから
ファーストのトム・ウェイツ・カヴァー集は
彼女の魔性におぼれすぎた遠慮が
つまらない方向に出てしまったように思う。


それを今回、
ピート・ヨーンは
しなだれかかってきた彼女を
「ざけんな」と振り払って
服を投げつけるようにしてアルバムを作った。


その
気のないデートみたいな感じが
最高なのだと言いたい。


ヨハンソンの歌う「アイ・アム・ザ・コスモス」は
数あるこの曲のカヴァーの中で
一番好きだ。


よけいな思い入れを
この曲に対して一切持たない彼女だからこそ出来た
ざらっと乾いたはなむけ。


冬の青空に
あきれるほどよく似合っている。
しばらく午前中の外出では
このアルバムだけ聴くだろう。


夜は二階堂和美の「solo」を聴きながら
帰ればいい。