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なにかあり/とくになし

父さんギツネバンザイ

昨日、映画「ホイップ・イット!」について書いたら
早速たれこみが。


5月に日本公開決まってますって。
タイトルは「ローラーガールズ・ダイアリー」。


この邦題はめずらしく
うまく言い得てる感じ。
お楽しみに。


それから
ウェス・アンダーソンの新作
ファンタスティック・ミスター・フォックス」(原題)も見た。


原作はロアルド・ダールの数ある名作のひとつ。


昔は「父さんギツネバンザイ」のタイトルだったが
数年前に柳瀬尚紀さんの新訳が出て
すばらしき父さん狐」にあらたまった。


英語的には柳瀬版の方が原題に忠実ということになるが、
思い入れの方は旧版(田村隆一・米沢万里子訳)に残る。
柳瀬版はまだ読んでないので不公平ではあるけれど。


でもまあ、
何と言っても一番あたらしい現代語訳というか解釈は
ウェス・アンダーソンによる映像版ということになる。


誰もがCGや3Dに走る中で
マペットを使ったストップモーション・アニメという
ローテクかつ想像を絶する作業量にわざわざ挑んだ
あたらしくて
どこかなつかしい作品だ。


最初は狐の造形や
カクカクとしたキャラクターの動きになじめなくて
思わず腕組みしてしまったが、
ダールの原作とアンダーソンの演出が
知恵比べしながら全力で追いかけっこしているような気持ち良さに
そのうち違和感なんてまったく気にならなくなった。


やがて狐たちのことが
“えぐさ”を“かわいさ”が合体して
“えぐかわいい”と倒錯気味に思えてしまったら
これはもう最高に揺るぎがたいウェス・アンダーソン印。


狐の本能で人間から略奪を繰り返す主人公の父さん狐と
食料を奪われた復讐にと
自分の権利だけを主張して
陰険でねちっこく過剰なまでの攻撃で
動物たちを追いつめ
彼らの社会を破壊する強欲な人間の姿には
中東への進攻をやめないアメリカ軍の姿もダブる。


主役の声優に
ジョージ・クルーニーメリル・ストリープという
実写でも実現しない超大御所の揃い踏みが叶ったことには
作品の持つそういう意図が彼らに何かを訴えたからなんじゃないかとも思う。


アンダーソン作品にはほぼレギュラーのビル・マーレイも、
もちろんいるということで
抜かりなし。


音楽使いも相変わらずの秀逸さで
ビーチ・ボーイズ「英雄と悪漢」が唐突に流れるシーンには
頭の奥をキュイッとひねりあげられたようなショックを受けた。


そしていつものように
ウェス・アンダーソン
まるで「英雄と悪漢」が
この映画のために40数年前から現代のために
用意されていたかのごとく思わせやがるのだ。


さて
見終わったあと
ぼくの口を突いて出た喝采
「すばらしき父さん狐」ではなくて
「父さんギツネバンザイ!」の方だった。


狐のキスシーンに涙したのは
生まれてはじめてだ。