mrbq

なにかあり/とくになし

いつかだれか彼か彼女にうまく聞き出してくれないか

最近一番好きなシンガー・ソングライター
リッキー・リー・ジョーンズだ。


今さら!


それも
彼女がデビュー・アルバムをレコーディングする前に
ワーナー・ブラザーズに提出したデモテープの一曲
「ヤング・ブラッド」に
ぞっこんだ。


きっかけは
「レコードコレクターズ」4月号に載っていた
トム・ウェイツ特集だった。


1977年に彼を招聘した
麻田浩さん(Tom's Cabin)の記事が
とてもおもしろかった。


このころのトム・ウェイツと言えば
リッキー・リー・ジョーンズと恋仲だったのだが、
実際のレコーディングに残された痕跡は
意外なほどすくない。


彼女のセカンド・アルバム「パイレーツ」のタイトル曲は
彼に捧げられているのだが
それは別れてしまってからのお話。


何かほかにもないかと考えていたときに
ふと思い当たったのが
数年前にライノ・レコードからリリースされていた
彼女の3枚組ベスト・アルバム
ダッチェス・オブ・クールズヴィル」。


あのCDのディスク3は
未発表のデモテープやライヴ音源で
その中に「ヤング・ブラッド」のデモ音源が収められていた。


デビュー作「浪漫」では
シティポップなバンドアレンジになっている曲だが
このデモテープでは
彼女の表情はまったく違う。


まるでギターを弾くローラ・ニーロ
前のめりになって楽曲におぼれながら
ぎりぎりのところで泳ぎきる危うさを持つ少女の世界。


あまりにローラに似すぎているので
プロデューサー判断で
まったく違うアレンジが採用されたのではないかとすら思う。


この曲で
彼女の歌とギターと
くんずほぐれつデュエットするように鳴っているピアノがある。


ノー・クレジットだが
ぼくにはこのピアノは
トム・ウェイツだとしか思えない。


プライベートな空間で録られたと思しき音の悪さ、
オリエンタルな遊び心も交えながら
酔っぱらったようにグルーヴするピアノ、
そして
すべてをゆるして自分を投げ出すリッキー・リーの歌。


どうしてもっと早くに
このことに気がつかなかったのか。
前に「浪漫」のライナーを書いたときにも耳にしていたのに
全然考えつかなかった。
男はいつも
そこんとこにぶい。


いつかだれか
彼か彼女に
うまく聞き出してみてくれませんかね。


もちろん
ぼくにその機会が訪れたら
かならず
何とかして
まるで何かのついでみたいに。