mrbq

なにかあり/とくになし

グレート・ランチ・ハンティング

シフトの関係上、
今日はハイファイでひとり勤務。


12時から9時まで
外に出られないとあって
昼食を先にゲットしておく必要がある。


渋谷駅ビルの東急には
1F、B1とおいしいテイクアウト・ランチが揃っている。
せっかくだから
何か物色してみるか。


おこわ弁当もいいな、
中華弁当もいいな、
それともベーカリーかな。


ぷうんと香るお惣菜やお弁当に
鼻をふくらませたその瞬間だった。


ぐるっ。


来ました。
下っ腹。
べんべんべんべんと低い三味線の音が脳内にこだまする。


しかもこの三味線、
風雲急なり。
たらり冷汗。


確か地下にトイレがあったはずと
急いで階段を駆け下りる。
目指すは10メートル先。


すると年配の紳士ふたりが
列をなして今しも男子トイレに突入しようとしているではないか。
その動きはまるでカタツムリほどスローモーに見えるのに
何故か追いつけない。
やっと追いつきそうだと思ったら
目の前で空いていた「大」の扉が
ふたつともバタン。


その瞬間
そこに飛び込む老人たちのスピードが
アメフトのタックルばりの速さに見えた。


オーノー。


とても待ってはおられんと
他の階を案内板で探す。
ある。4階。


エレベーターが来た。
飛び乗る。
「閉」を押す。
と、その向こうから
「待って〜」と年配のご婦人が。
奥歯を噛み締めながら「開」を押す。
「ど〜も〜」


さあもう上がるぞ、
人生は上昇するのみ。
邪魔立てするものは、もうなにもないはず。


そのとき
ご婦人のやさしい声がした。


「あの〜、3階押してくださる?」


結局、エレベーターは何とか4階に到着。
あう〜ん、と
子犬のようなかなしい声を上げながら
男子トイレに飛び込んだ。


は〜ふ〜は〜。


するとどうしたことか、
それまであれほど頭の中でふくらんでいたランチへの期待が
一気に消し飛んでしまった。


どうやら欲望も一緒に
トイレの中に
出ていってしまったらしい。


カップヌードルにするか!」


かくして
今日のグレート・ランチ・ハンティングは
意外な結果に終わったのだった。