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なにかあり/とくになし

良平を待ってなくていいのか

天気のいい朝方の道を
小学生男子の集団が
ぼくの数十メートル先を
はしゃぎあいながら歩いている。
どこかに遊びにいくのだろうか。


しばらくすると
彼らが急に立ち止まって
こっちを振り返った。


そして
そのうちのひとりがこう言った。


「良平を待ってなくていいのか!」


声変わりもまだしていない
高くて強くてよく通る声。


え?
いや、おれが良平なんだけど。
おれを待ってくれてるのか?
もう待ってくれないのか?
一瞬
気が動転した。


子どものころに似たようなシーンがあったわけでもないのに
妙な錯覚がぼくを揺るがした。


自分の昔に呼び止められ、
しかも置いてけぼりにされて、
いくら子どもぶって暮らしてみせても
もう二度と戻れないんだと
通告を投げつけられている気がして。


「いいんだよ! 良平は」


今度はぼくのうしろから声がした。


なんだ、
ぼくのうしろにもうひとり小学生がいたのか。


いいのか?
その良平は
どうでもいい良平なのか?
それとも
置いてけぼりにされても
ひとりで歩いて追いつける
心の強い良平なのか?
そもそも良平のことを「いいんだよ!」と言い切れるおまえは
良平のともだちなのかい?


良平は
実はここにいるのに。


ずんずんと歩いていくうちに
立ち止まっていた小学生たちを
良平は歩いて追い越した。


わるいね、
良平は実はもう30年ぐらい先に
歳とっちゃってて。


彼らの待つ本物の良平は
果たして置いてけぼりになったままか、
それともどこかで合流したのか、
夜寝る前にちょっとだけ思い出して心配した。