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なにかあり/とくになし

日記のようだと思うライヴを二日続けて見た日記

子どものころに大変お世話になった
おばちゃんの訃報にうろたえて
思わず書きもらしてしまったが、
12日の夜は
渋谷クラブクアトロ
ジェシー・ハリスのライヴを見ていた。


バンド編成での来日は5年ぶりらしい。
その5年前とは
確か初来日公演のはずだが
ずいぶんときめこまやかな音作りで
ブラジルっぽいフィーリングのバンドだったと記憶している。


それに比べると
今回のジェシーを含めてトリオ編成のバンドは
良い意味での図太さを感じさせた。


ときおり
顔が小さくて背が高い女性シンガーがコーラスに出入りしていたが
彼女はハンナ・コーエンという
ウェストコーストの女性シンガー・ソングライター
中盤にはソロ・コーナーも設けられた。


曲も立ち振る舞いも
まだまだ若くて定まってない感じはあるけれど
彼女が一緒にステージに立つことで醸し出される
ほんわかとしたみずみずしさ(アマチュアっぽさとも言う)は
決してイヤな感じじゃなかった。


彼女の存在も含めて
多少のラフさはあっても押し切れるというムードが
今回の演奏にはあって、
きっと彼の地元であるニューヨークでも
こういうライヴをやっているんだろうなあと思えた。


そのことがライヴ全体を
淡々とした毎日を味わい深く記した日記みたいに
心地よく感じさせてくれるのだ。


気になるシメキリがあったので
終演後は早めにクアトロを出た。
階段の途中で
昔、西早稲田にあった
「ジェリー・ジェフ」のご主人(女性)と出くわす。


渋谷駅に向かって歩きながらすこし話をして
「今度連絡を」と言い合って別れた。


原稿は13日のお昼までに無事入稿。
夕方から寺尾紗穂さんのワンマン・ライヴを見に
下北沢のラ・カーニャへ。


寺尾さんは
歌いたい歌を歌いたいように歌っていた。
彼女にとっては
いつだって歌とはそういうものなのだろうが
今夜のライヴは
ひときわ歌に打ち込んでいる印象が強くて
心がふるえる。


アンコールで
ラ・カーニャに初めて出演したとき以来
4年半ぶりにこの曲を歌いますと彼女は言った。


それは記憶力とかの問題じゃない。
どの日どの夜にどの曲を歌ったということに
彼女にとっての日記のような意味が
ちゃんとあるということなのだ。


歌い始めたのは
吉田美奈子「時よ」。


いったい美奈子さんのどのアルバムに
あんなにすごい曲が入っていたっけと
記憶を見失うほど感動した。


家に帰ってレコード棚を確認すると
「時よ」を収録しているのは
78年の「愛は思うまま」だった。


ロス・レコーディングを敢行して
ふっきれた勢いのあるアルバムのなかで
自分を見失わないために打ち付けられたかのような
しずかなバラードを
寺尾さんがてのひらで大事に掬い上げているのだと思って
しばらくぼおっとレコードを聴いた。